濃厚接触タイム-2
「龍っ!」海棠家の玄関ドアを開けた真雪は、大声で叫んで、履いていたチョコレート色のローファーを乱暴に脱ぎ捨てた。
すぐに家の奥から龍の母親、ミカ(45)がやって来た。
「ミカさん、どんな具合?」焦ったように真雪は訊いた。
「今、部屋で寝てるよ。少しは熱は下がったみたいだけどね。」
どたたたた!ミカのその言葉を聞き終わらないうちに、真雪は荷物をそこに放り出して階段を駆け上がっていった。
龍の部屋のドアをそっと開けた真雪は、ベッドで鼻まで布団をかぶっている龍が、横目で呆れたように自分を見ているのに気づいた。
「真雪ー、俺、起きちゃったよ。せっかく気持ち良く寝てたのに・・・。」小さく咳をしながら龍は力なく笑った。
「龍っ!」真雪はまた叫んでベッドに突進した。そして布団ごと龍の身体をぎゅっと抱きしめた。「龍、龍龍龍龍!」
「うう・・、真雪ー、重いよ、大丈夫だよ俺。心配しないで。」
ベッドの横の床にぺたんと座り込んだ真雪は、龍の顔を覗き込みながらぽろぽろと涙をこぼし始めた。「龍ー・・・。」
「ど、どうしたの?真雪。」龍はびっくりして頭をもたげた。「な、何かあった?」
「良かった、良かったよ、龍、龍龍龍龍!」
「真雪?」
その時、部屋のドアが開いてミカが入ってきた。手に持ったトレイには飲み薬の入った袋と体温計、牛乳のパック、そして三つのグラスが載せられていた。
「良かったな、龍。真雪が早めに帰って来てくれて、もうすっかりよくなったんじゃないのか?」
真雪は顔を上げて真っ赤になった目をミカに向けた。
「ど、どうしたんだ?真雪、なに泣いてんの?」ミカが慌てて言った。「龍、おまえ、何かしたのか?」
「こっちが訊きたいよ。」龍が言ってまた枕に頭を乗せた。
「ごめんね、龍、ミカさん、あたし、龍が動いてしゃべってるの見たら、どっと安心しちゃって・・・・。」真雪は照れたように涙を拭った。
「何それ。『どっと安心』?変な日本語。」龍は笑った。
「そんなに心配してたんだ、龍のこと。ありがとうな、真雪。」
そう言いながら、ミカはグラスに牛乳を注いだ。「勝手に開けちゃったよ、真雪。あんたが行ってた研究所のだろ?これ。」
「うん。所長さんが龍へのおみやげにって、持たせてくださったんだよ。」
「ほんとに?あの所長さん、俺好きだな。人当たりが良くて親切だし。」龍は嬉しそうに笑った。
「だよね。龍にもよろしく、っておっしゃってたよ。」
「温めた方がよかった?牛乳。」
「平気だよ。そのままで。」
ミカはそのパックをトレイに戻し、代わりに薬の袋を手に取った。「じゃあ解熱剤もいっしょに飲んどきな。」
「うん。」龍は身体を起こした。真雪が慌てて龍の背中を抱き、起き上がるのを手助けした。「ありがとう、真雪。」