恋-5
「俺の相棒だ……当たり前だろが」
スランは鼻で笑ってふてぶてしく答えた。
その顔は誇らしげで、スランと鷹がどれだけ強い絆で繋がっていたか安易に想像出来た。
「そうだな……さて。中に入ってみるか」
服をちゃんと着たゼインは、少し震える手を胸に置いて前を見る。
目の前にはスランが立っていて、いかにも「大丈夫か?」と問いたげだった。
それを見たゼインは目を丸くした後、思わず吹き出す。
(不本意とは言え、抱いた相手に情でも移ったかねぇ)
カリーから『ログの黒い鷹』は冷徹で『赤眼のカリオペ』以上に容赦無し、と聞いていたがこれじゃ普通のお人好しな奴にしか見えない。
「なんだよ?」
人が気を使ってやってんのに笑うとは何事だ……とスランは嫌な顔をする。
「いや、大丈夫」
ゼインは大きく息を吸って、後ろのカリーとポロに振り向いた。
無表情なポロだが、アイスブルーの目が色々語っている。
イキタイ……そう伝えるポロは怯えてはいるが、希望は失っていなかった。
そして、カリー……彼女はゼインと目が合うと、その赤い眼をスッと細めた。
思わず背筋が寒くなるような暗殺者の視線……あんまり情けない姿を見せると後ろから刺すぞ、と言っている。
(ははっ……うん。大丈夫)
性格が不器用な暗殺者に、感情豊かな無表情奴隷……そして、愛する黒い天使。
人間でも魔物でも無い、アンバランスな自分にはアンバランスな仲間が居る。
ゼインは吸った空気をゆっくり吐き出して、前を向いた。
「行こうぜ」
生きる為に、決着をつける。
建物内に何か動く気配は無く、正にもぬけの殻だった。
外で死んでいる『手足』達しか居なかったようだ。
内部もゼインが居た施設と全く同じ。
4人は手分けして建物の中を探索した。
「……ゼイン」
台所を調べていたポロが、ゼインに小さく呼びかける。
台所にあるカウンターの上に置かれていたのは大量の焼き菓子……ゼインがあの男に良く作ってやったものだ。
ゼインは焼き菓子をひとつ手に取る。
「それね、いつも作ってた」
「?」
ポロも焼き菓子を手に取り、ポツリと呟く。
「食べるワケじゃないの……でも、3日に1回は作って……ここに置いてた」
台所のこの場所はゼインの定位置だった。
奴隷として一緒のテーブルには着かないが、あの男に給仕する為にいつもここに居た。