小さな幸せV-1
カイの心があたたかいものに包まれてたのも束の間、アオイの体が宙に浮いた。
「お行儀の悪い子は誰かな」
諭すように言い聞かせるキュリオがそのままアオイを抱いて席へと戻っていく。カイは寂しそうにその背中を見つめて、手元のビスケットを紙に包み、大切に胸元にしまった。
カイの様子を気にしながら、アオイは手早くミルクを飲みほすとキュリオの膝から再び飛び降りた。
「カイあそぼー!!」
アオイの声に顔を上げたカイは、大きく頷くと飛び込んできたアオイの体を抱きしめ広間から出て行った。
「やれやれ・・・」
小さくため息をついたキュリオの元に大臣が姿をあらわした。
「キュリオ様、あのくらいの年の子はしかたがありますまい?アオイ様が健やかにお育ちになってる証かと」
この優しい目をした大臣も、アオイを孫のように可愛がっている。しかしまた、父親であるキュリオの心がわからないわけでもない。
「いや、私は・・・」
「カイのことが気になりますかな?」
「・・・・」
(これが親心というものなのだろうか・・・)
王宮に仕える者たちが邪魔だとは思わない。だが、王宮でアオイとたった二人きりだったらどんなに良いかと思わずにはいられなかった・・・
「アオイ様!どこまで行きましょうかっ」
キュリオの心情とは逆に、心を弾ませているカイは風のように森を駆け抜けていた。
アオイを抱いたまま、軽い身のこなしでどんどん先へと進んでいく。
ふたりのお気に入りの森は日の光を浴びて美しく輝いている。いつも遊びにくるアオイとカイを歓迎しているようだ。
「カイまって!」
「アオイ様?」
アオイが指さしたほうを見ると、小さな聖獣の子がうずくまっているのがみえた。
「あれは・・・」
カイの胸元から飛び降りたアオイは聖獣の子へと手を伸ばした。角度を変えてみると、真っ白な霊獣の毛が血にまみれている。
「だいじょうぶ?」
よく見ると針金のようなものが足にからみつき、肉を裂いて深い傷口があらわれた。
「あ・・・」
眉を寄せたアオイは針金を解こうと指を動かし始めた。