小さな幸せT-1
カイがアオイとの出会いに思いを馳せている頃、アオイを抱いたキュリオは王宮の階段をゆっくりとのぼっていた。
(まだ階段を一人で歩かせるにはいかないな・・・)
より一層重厚感のある立派な扉を押しのけてとキュリオは中へと足をすすめた。王宮の重鎮でさえ、この扉の向こう側に入ることは許されず、たまに身の回りを整えにくる女官が入れるくらいのものだ。
だが、アオイがキュリオの元に来てからというもの・・・ほとんどの夜をこの小さな娘ととともにこの部屋で過ごしていた。
大きな寝台にアオイを横たえると、指先で前髪を梳いて額に口付けを落とした。こうすると眠っていてもアオイは嬉しそうに目元をほころばせる。こんな小さな仕草ひとつもキュリオの心をとらえて離さない。
「私の可愛いアオイ・・・」
キュリオはアオイの傍らに横になると、彼女を包み込むように腕をまわした。すると・・・小さなアオイの手が、無意識にキュリオの胸元を握りしめ顔を埋めるようにして寄り添ってくる。
「ふっ・・・」
幸せそうな笑みを浮かべてキュリオはアオイとともに眠りへと落ちていく。キュリオにとって、こうしてアオイに寄り添っているときが何よりも心安らぐときなのだ。
―――――・・・
数時間後・・・寝台が軋む音がしてアオイは目を覚ました。
視界にはキュリオの後ろ姿がうつる。
「おとうちゃま・・・?」
愛娘の声に振り返ったキュリオが近づいてくる。
「おはようアオイ、起こしてしまったかな?」
寝起きでぼーっとしている娘の頭をなでると、乱れた衣服を整えてやる。
ふるふると首を振ったアオイを抱き上げると、テラスへと足を運んだキュリオ。
アオイを抱えた逆の手を前へと差し出すと・・・キュリオの全身からあふれ出る癒しの光がその手のひらへと集まっていく。
そのまま頭上へと手をかざすと・・・
いっきに光の波が悠久の大地を覆い尽くしていった。キラキラと輝く黄金の光は、命のある全てのものへと降り注いでいく。
その光景を嬉しそうに見つめるアオイは興奮のあまり身を乗り出した。
「おっと・・・」
危うくアオイを落としそうになったキュリオが慌ててその体を抱きしめ直す。