剣士・カイV-1
それまでカイは子供の世話をしたことがなく、初めてアオイと顔合わせとなったときの戸惑いを今でも覚えている。
キュリオの胸に抱かれていた彼女は、髪の色も瞳の色もキュリオとは違う。だが、アオイの纏うオーラはキュリオとどこか似ていて他者を安心させる何かがあった。
「カイ、この子が私の娘アオイだ。話は聞いているね?」
「・・・あ、はい・・・」
話というのは彼女がキュリオの実の娘ではないということだ。王宮で孤児を育てることは今までもあったが、キュリオが娘として育てると王宮に迎い入れたのは初めてのことだった。
孤児は王宮の敷地内の別の施設で育てられる。教育係や世話をする者がいてカイは直接子供達と接する機会はなかったのだ。
「さぁ、アオイ。彼が剣士のカイだよ」
キュリオはアオイへと視線を落として、柔らかな眼差しで愛娘を見つめている。
キュリオを見上げたアオイは不思議そうにカイへと視線をうつす。愛らしい瞳がカイをとらえて・・・やがて小さな笑みを向けた。
「きゃぁっ」
喜びを含んだようなアオイの明るい声に、カイは驚いて動きをとめた。
「初めてましてアオイ様・・・これからお世話させていただきますカイと申します」
片膝をつき、胸元に手をあててカイはアオイへと一礼した。頭上から聞こえるアオイの声に顔を上げると、小さな手がカイへ向けて差し出されている。
「おや?アオイはカイを気に入ったみたいだね」
「アオイさま・・・」
アオイの小さな手に手を伸ばすと、吸い付くような肌とその感触に驚く。力を入れたら壊れてしまいそうな幼子の手。そして、瞳の奥にある優しさを含んだ眼差し。
(この方がアオイ様・・・俺が仕える小さな姫・・・)
格段能力が高いわけでもなく、出生不明の捨て子だったアオイをキュリオが受け入れた理由は彼以外わからない。だが、城で不満を唱える者はおらず、皆彼女を愛している。
「カイ、君とアオイは一番年が近い。極力私が育てようと思っているが・・・私が傍にいてやれないときは頼んだよ」
「かしこまりました。この命にかえても・・・アオイ様は俺がお守りいたします」