剣士・カイT-1
カイの胸元に顔を寄せるアオイはキュリオに向ける笑顔同様、安心しきった顔をしている。自身が赤子の頃より傍にいるカイを、アオイは兄のように慕っていた。
「キュリオ様は大事なお客様がいらっしゃってますから、あちらに参りましょう?」
カイがアオイを抱きかかえたまま、部屋をあとにしようとするとその背に声がかかった。
「キュリオ様・・・お時間をいただきましてありがとうございました。私どもの声に耳を傾けてくださること・・・まことに感謝いたしますぞ」
村を代表して城を訪れた中年の男性は、出て行こうとするカイとアオイに気をきかせてソファから立ち上がった。
「もう帰るか」
中年の男性を送り出そうとキュリオも立ちあがった。偉ぶった様子もなく、彼らは城の外まで見送りにと出ていく。
「では、体を大事にな」
言葉少なく客人と握手を交わすキュリオに恐縮した男は、深く一礼し微笑みを残してその場を後にした。
カイが抱き上げていた愛娘のアオイはというと、眠そうな目をこすりながらカイの肩口に頬をのせていた。
「おいで、アオイ」
「・・・おとうちゃま・・・」
その声に手を伸ばしたアオイは、キュリオの腕に包まれるとそっと目を閉じた。
「ゆっくりおやすみアオイ・・・」
壊れ物を扱うように優しく頬をなでるキュリオの手。アオイは甘えるようにキュリオを抱きしめた。
「カイ、今日はこれと言った執務は残っていないはずだ。アオイは私が見る。お前はこのまま好きにしなさい」
歩き始めたキュリオにカイは慌てて歩みよった。
「いいえ、キュリオ様!
俺はアオイ様の世話係です、お目覚めるまで俺がお傍に・・・・」
ピタリと足をとめたキュリオはカイを振り返った。
「・・・私にもアオイと過ごす時間を分けてくれないか?」
カイはキュリオの言葉に、伸ばした手をひっこめた。
「あ・・・」
視線を落としたカイに、キュリオは目を伏せて城の中へと下がっていく。
健やかな寝息をたてるアオイの背を抱きながら、キュリオは考えていた。
(今からこんな状態では・・・
十数年後が思いやられるな・・・)