大好きなお父様T-1
ここ悠久国は、気候・そこに住む人々、霊獣たちも心穏やかで皆平穏な日々を送っている。これも歴代の王たちや、現・王であるキュリオの力によるものだ。
即位から五百年を越えている彼は、即位当時と同じ二十代半ばの姿を保ち続けている。王の寿命は長く、千年を越えることもある。
キュリオには伴侶がいない。彼の容姿・柔らかな物腰のどれをとっても大変魅力的で、美しい女神たちから愛を告白されること数知れず。
だが、キュリオはどの女性にも運命を感じることなく・・・彼の愛情を独占できる者は未だかつて現れたことがなかった。たった一人、血の繋がらぬ娘のアオイ以外は・・・。
今日は悠久の城に客人が来ている。
以前キュリオが、湖を浄化した際に近くに住んでいる者たちに影響はないかと調べさせていた。
私はいくつかにまとめられた結果の報告書に目を通しながら、向かい側に座る中年の男性の声に耳を傾けている。
「キュリオ様のおかげで大事には至らなかったようです。お早い対応まことにありがとうございました」
「何か気になることがあればいつでも言ってくれて構わない」
深々と頭をさげる男にキュリオは頷きながらこたえると、紅茶のカップに口をつけた。
・・・その時、
コンコン・・・
扉のほうでノックをするような、控えめな音が響いた。
「キュリオ様に御用の方でもいらっしゃいましたかな?」
気が付いた中年の男性も扉のほうへ目を向けた。しばらく待ってみるものの、誰かが入ってくる気配はない。
「もしかして・・・」
口元に笑みを浮かべたキュリオは、ゆっくりした動作で扉をあけた。
だいぶ目線を下げると、そこにはベビーピンクの可愛らしい服に身を包んだキュリオの愛娘・アオイが佇んでいた。
「・・・おとうちゃま、おしごと?」
不安げに見上げるアオイはキュリオの服の裾をつかんだ。確か、女官や侍女に世話を頼んでいたはずなのだが・・・あたりを見回しても誰もいない。
「もういいよアオイ、話は終わったようなものだから。こっちへおいで」
穏やかな笑みを浮かべるキュリオの言葉に頬を染めて喜ぶアオイは、キュリオの手によって抱き上げられ胸元に顔を埋めた。