決意の夜-3
とにかく食器を洗わなければ―。
流し台で養父のお皿と自分のお皿を洗っていると、足音が聞こえた。
「さーちゃん、お風呂空いたからね」
養母・美恵子の声。
「はーい、今から入ります」
「そう…。お父さんから聞いていると思うけど、あとから部屋に来て…」
思わず手が止まった。
「お母さん…」
「どうしたの?」
振り返ると、養母と目が合った。目は沈んだ色をしている。気のせいだろうか。薄紫のタートルカットソーの艶やかさとは対照的に表情は暗かった。
「わたし…お父さんと…」
「そんな暗い顔しないの。こっちまで暗くなる……。そうでなくても…」
「えっ?」
「なんでもないわ。とにかくお風呂から上がったら、部屋にきてちょうだい」
「はい…」
男性に抱かれたいという願望はあった。仄かな憧れのような願望だ。好きな人に抱かれたいと、夢見ていた。まさか…育ててくれた父親に抱かれることになるなんて……。紗綾はお風呂の中で涙ぐんだ。涙ぐみながらも、全身をきれいに洗う。
初体験で絶望したら死ぬかもしれない。湯船に浸かりながらそう思った。
お風呂から上がり、新しい下着を身に着けた。木綿の白い下着だ。そして、オレンジ系のAラインブラウスと白のショートパンツに身を包む。
新田家本宅の離れにある自分の部屋で髪を乾かした。髪の毛をシュシュで纏めても、養父にほどかれることになる……。そんなことを考えたら、また涙がこぼれた。
サンダルを履いて、本宅に向かった。明日は学校に行けないかもしれない…。
本宅に入る手前で足を止めて、ハンカチで涙を拭った。
キッチンの横手にある勝手口から本宅に入り、サンダルを脱いでスリッパに履き替えた。
(お母さんに、気持ちを伝えよう…)
ノックして、養母の部屋に入った。美恵子はいつになく、気丈さを顔に滲ませている。