決意の夜-2
「竹中君のこと?」
「そうだよ。あたしの彼氏を取ったんやから、ざまあみろだ」
「知らなかったんです。美和さんと竹中君が付き合っているなんて……」
「そう…。あいつは『好きな人ができたから、別れてくれ』って、言ってきた……」
「すいません……。竹中君とはもう会いませんから…」
「そうなの…。あんな奴、もうどうでもいいんだよ。なに?これ?」
美和はテーブルの上にあったメモ用紙を取って広げた。
「それは…」
紗綾は思わず俯いた。
「お風呂から上がったら、美恵子の部屋に行って寝巻きを受け取りなさい…。なんだよ? 寝巻きって?」
「さあ?……」
「ふーん…お母さんはランジェリーショップやってたからね…。エッチなのも持ってる……。あんた今晩、親父に抱かれるの?」
紗綾は顔を上げた。
「美和さん、助けてください」
哀願した。
「どうしようもないよ…。親父の目線はいつもあんたを見ていた。小学生の頃から、あたしよりもあんただった…。悔しいよ…でも仕方ない。親父に可愛がってもらいなよ」
「そんな…なぜわたしが…」
「泣きそうな声ださないの。セックスは、経験するまでは怖いけど…経験したら、気持ちいい…またしたいって、なるんだ。あんた、少しは興味あるんだろう?」
「興味って…わたし、好きな人に捧げたいんです」
「きれいごと言ったって、どうしようもないんだよ」
美和は紗綾の顎を掴んできた。びくっとなる。
「綺麗な顔してる。すごく綺麗だ…。あたしは、ずっとあんたに嫉妬してきた…。顔を傷つけてやりたいって、何度も思ったよ…」
紗綾の顎から手を離した。
「わたし……美和さんやお母さんに迷惑かけまいと思って、一所懸命やってきたんです…。助けてください」
「いやだね。親父の愛人になる。それがいいよ。あたしはいい男を見つけて、ここから出ていくから。いずれ出ていく。玉の輿に乗ってやる」
悔しさと怒りが瞳の中に見えた。美和はキッチンから出ていった。
紗綾は途方に暮れた。ここから逃げ出したい…。しかし、新田家から出ても、頼る人がいない。どうすればいいのか…。養父の理不尽な要求を断るすべはないものだろうか。
怖い……。養父に抱かれるなんて……。