世界中の誰よりもいちばん-1
「た、ただいまぁ?」
「おかえりなさい秋子さん」
あれから数時間後、夕食もお風呂も済ませた僕は、
管理人室でひとり、秋子さんの帰りを首を長くして待っていた。
「ど、どうしたのだ? やけに機嫌良く見えるが…………」
「そうですか? 気のせいじゃないですか?」
満面の笑みで秋子さんに近寄っては、そっと白衣を脱がせてハンガーへと掛ける僕。
白いブラウスからは相変わらずの豊満な胸元が見え隠れしており、
黒のタイトスカートは、はち切れんばかりの美しいヒップラインを描いている。
「今日は………… その、どうしていたんだ?」
「今日ですか? 今日は風音ちゃんの看病となりゆきでカウンセリングを…………」
「ほう? あの風音がか?」
「ええ、またあらためて報告書は書きますが…………
それなりにいい結果に導けたんじゃないかと思いますよ?」
そんな会話をしながら僕は、秋子さんの手を取りそっと後ろにまわさせ、
美咲さんからもらった特殊な糸でその手首を結び始めた。
「うん? か、和也? 何を………… してるのかな?」
「何って………… とりあえず邪魔な手を動かないようにしてるんですよ?」
平然と、何の気無しにそんな事を呟きながら、
黙々と手首を縛り付け両手の自由を奪う僕。
「い、いやいやっ 邪魔な手をって………… お、おいっ…………」
「なんかこの糸ってNASA製の特殊素材らしくて…………
ハサミはおろか火であぶっても簡単には切れないらしいですよ?」
そんな講釈を垂れつつ、今度はポケットから黒い布を取り出しては、
おもむろに秋子さんの目にそれを結びつけはじめる僕。
「か、和也っ??? こ、これは?」
「これも美咲さんから脅し取った………… もとい、借してもらった特殊な布でして、
きめ細かい縫い目からは絶対に光を通さないという優れものです」
そう言って僕は秋子さんの視界をも奪う。
「え、えっと………… これは…… な、何の真似かな?」
「あれ? 身に覚えは無いとでも?」
「………………み、美咲のヤツ …………口を割りおったか」
舌打ちをしながらがっくりと項垂れる秋子さん。
すぐに観念する姿勢はいかにも秋子さんらしく潔いものだが、
残念ながら今日ばかりは簡単に許すつもりはなかった。