アールネの少年 1-1
※※※
北ナブフルの冬は厳しい。
国土の大半は険しい山岳地帯であり、森に覆われていた。
海べりのわずかな平地に都市を築き、海産物とささやかな工芸品の輸出が国の主な産業だ。
沿岸に住む男の多くが北の遠海へこぎ出す船に乗る漁師であり、女たちの多くがその収穫物を加工する職に就いていた。
資源豊かな領海をめぐる争いは絶えず、毎年多くの男たちが凍える海に命を落とす。
それでも、生計をたてるために船を出さないわけにはいかない。土壌は痩せており、国民の口を満たすだけの穀物を育てることはできなかった。貧しい国だった。
隣接した大国ロンダーンとの同盟関係は、この国の命綱とも言うべきものだった。
十五年前の大戦を経て、敗戦とともに代替わりした現在の北ナブフル王は、戦勝国であるロンダーンと決死の交渉の末に、ある条約を交わした。軍事的恭順と引き替えに、一国家としての自治を認めさせたのだ。
北ナブフルは、西側の好戦的な新興国家群とロンダーンの間の防波堤となりうる位置関係にあった。
ロンダ―ン軍の駐留と入出国を受け入れ、砦の建設を許し、諸国に不穏な動きがあれば共に戦うこともする。
砦の建設や周辺の森を拓くためにロンダ―ンは莫大な資産を投入し、その一部はそのまま北ナブフルの国庫を潤した。
大国の属国となったも同然であり、王は我が身の安全と引き替えに国を売り渡したのだという誹りは未だに絶えない。
だがこれを外交的勝利だと認めるものもまた多かった。
もし国の滅亡に殉ずる頑なな王だったら、北ナブフルはロンダーンに呑み込まれ、その国土の一地方となりはてていたに違いないからだ。
即位より十余年、王は反発も支持も受け止め、そうしてわが国家を延命し発展させることに腐心していた。