VS歩仁内-1
「はあ、風邪!?」
俺は眉をひそめて沙織の顔を見上げた。
「そう。だから、今日の放課後に桃子の家にお見舞い行こうと思ってるんだけど、修も行かない?」
二時限目の休み時間、珍しく沙織が俺のクラスに顔を出して、石澤が風邪で学校を休んでいることをご丁寧に教えてくれた。
制服もとっくに衣替えを済ませ、日ごとに暑くなってきているこんな時期に、風邪ひく奴なんてバカしかいないと思っていたら、どうやら俺の彼女はそのバカの仲間に入っていたらしい。
「……いいよ、俺は。風邪くらいで見舞いなんて大げさだろ?」
俺は、あくび混じりの面倒くさそうな声で断った。
「ダメだよ、桃子に英語のノート貸してるんだから。今日修と取りに行くって桃子にメールしちゃったし」
すると、俺の席の横に立っていた沙織はとんでもない事後報告をしてきたのである。
「……勝手に俺を入れんなよ」
俺は頬杖をつきながらハアッとため息をついて沙織を睨んだが。
「ごめーん。だって、修も連れてきたら桃子が喜ぶと思って」
沙織は物怖じもせずにニカッと笑って白い八重歯を見せ、両手を合わせて軽いノリで謝るだけ。
……チクショ、可愛いじゃねえか。
実は、俺は沙織のこの笑顔に弱い。
何気にワガママで強引な所も、この笑顔を見せられるとしょうがねえな、ってついつい許してしまう。
まあ、これは石澤や倫平には内緒だけど、昔ちょっと好きだった名残なんだろう。
「……わかったよ。でも風邪ひいてんなら長居はしねえぞ」
「うん、じゃあ倫平にも言っとくから」
沙織は少し安心したように微笑んだ。
するとその時、背後から
「ねえ、何の話?」
と、よく響く聞き慣れたあの声が聞こえてきた。