私にも気持ちいいこと教えて下さい-8
「風音ちゃん? 遠藤だけど…………」
ドアをノックして何度か声を掛けてみるも、
やはりというか中から返事は返ってこない。
思った通りすでに学校へと出掛けたみたいだ。
そう考えた僕は、安心して風音の部屋を後にするも…………
ガタガタッ
何やら部屋の奥から尋常ではない物音が聞こえたため
慌ててドアの前へと舞い戻っていった。
「か、風音ちゃん? やっぱりいるの? いるなら返事して?」
大声で風音の名を呼びながら繰り返し何度もドアを叩く僕。
相変わらず返事は無いが、少なくとも部屋に誰かいる気配は感じる。
「ごめんね………… あ、開けるよ?」
女の子の部屋を了解無しに開けるのは忍びないが、
あまりに嫌な予感がしたため、僕は勢い任せにドアノブを廻した。
「!?風音ちゃんっ!?」
案の定、悪い予感は的中した。
ドアを開け、部屋に足を踏み入れるよりも先に僕の目に飛び込んできたのは、
制服を着たままうつ伏せに倒れ込んでいる風音の姿だった。
「ど、どうしたの? 大丈夫? ねぇ? 風音ちゃんっ」
僕は慌てて風音の体を抱き上げると、
思わず大きな声でその名を呼びながら肩を揺さぶった。
「んっ…… え、遠藤………… さん…………?」
「風音ちゃんっ」
朦朧とした様子で僕の名を呼ぶ風音。
見れば顔は真っ赤に火照り上がり、瞳は今にも涙が零れそうなほどに潤んでいる。
「いったいどうしたの………… って、うわっ すごい熱っ!」
「が、学校に………… 行かなきゃ…………」
「駄目だよっ! そんな体で無理しちゃっ」
「で、でもっ………… げほっ…… げほっ……」
どうやら風音は風邪をひいたみたいで、
噎せ返るほどに何度も咳払いを繰り返しながら、
立つ事もままならないほど熱にうなされているようだ。
「まったく………… そんな状態でどうやって行くつもりなのさ?
学校には僕が連絡するから、今日は大事を取って休もうよ?」
見た感じ這ってでも学校に行こうとしていた風音。
けれど、さすがに観念したのか、僕の腕の中で力無く首を縦に落とした。
「ん、いい子だね………… じゃぁ少し移動しようか?」
僕は風音の体を持ち上げると、ゆっくりと部屋に足を踏み入れ、
奥のベッドへとその身体を横たわらせた。
「それじゃあ電話してクスリを持ってくるから、大人しく寝ているんだよ?
あ、シワになるから制服は着替えておきなね?」
気怠そうに、どこか申し訳なさそうに、僕の言葉に力無く頷く風音。
僕はその頭をそっと撫でては、すぐに部屋へと戻りクスリを探しに行った。