私にも気持ちいいこと教えて下さい-7
「ぬ、主様? その…………」
「うん? どうしたんだい?」
「ご迷惑かけついでに…… その…… もうひとつだけお願いがあるのですが……」
「何? さっきも言ったように僕に出来ることなら何でも言いなよ?」
僕が顔を覗き込むと、恥ずかしそうに目を逸らす雫。
赤らんだ顔がいっそう紅潮しているのがわかる。
「そ、その…… もう少し屈んでもらえますか?
「ん? こう………… かな?」
膝を曲げ、少し前屈みに体を落とす僕。
するとその瞬間、雫は少し背伸びしながら、僕の頬へと唇を重ねてきた。
「え? あ、えと…………」
「い、行ってきますのチューなのです」
もじもじと恥ずかしそうにうつむいたかと思うと、
鞄を手に取りまるで逃げるように玄関を駈け出す雫。
「あ、慌てて事故しないようにね?」
「はいっ! い、行ってきますです! 主様♪」
手を振りはにかんだ笑顔で僕にそう告げると、
雫は機嫌良さ気に学校へと歩んでいった。
(なんだろう? 今日はやけにみんな僕にキスしてくるなぁ…………)
もちろん男として悪い気はしないけど、
どうにもその行動の意図が掴めず、相変わらず小首を傾げながら廊下を歩く僕。
『君は私にとって良い意味で鈍感だからこの仕事に向いてるよ』
ふいに秋子さんが僕に言っていた言葉が頭を過ぎるが、
それもいまだよく意味が解らないのであまり気にしない事にした。
(って、そうこうしてるウチにもう八時か………… 今日は何しようかな…………
そう言えば秋子さんがまた生理学の新書を買ってたからそれでも読むかな?
あ、あと管理人室のシーツを洗って布団も干さなきゃ…………)
漠然と今日の予定を立てながら廊下を歩く僕。
その時、ふと、今日はまだ顔を合わせていない寮生がひとり頭に浮かんだ。
(あれ? そう言えば風音ちゃんを見かけないな? もう出掛けたのかな?)
さすがに雪菜ほど早く学校に行くわけはないだろう。
もしかして雫の着替えを手伝ってる間に出掛けたのかもしれない。
けれど、なんとなくその動向が気になってしまった僕は、
そのまま風音の部屋へと足を向け、こっそり様子をうかがう事にしてみた。