私にも気持ちいいこと教えて下さい-20
ただでさえ自我もまだ目覚めていない感受性の高い年頃に、
性というデリケートな問題を力任せに抑えつけられていた風音。
トラウマなんて言葉ではすまされない、おそらくその時の恐怖がきっかけで、
性に関して極度の潔癖になってしまったと言っても過言ではないだろう。
「私の家………… 母子家庭なんです……」
「あ、そうなんだ?」
「はい………… 異父姉弟が五人ほどいるんですけどね…………」
「へ、へぇ………… 異父って事は全部風音ちゃんのお母さんが?」
「はい、三度の離婚を繰り返して…… 中には不貞の子もいるとか…………」
「そ、そうなんだ…………」
過去のトラウマを打ち明けた事で随分と気が楽になったのか、
えらく重い過去をさらりと語る風音。
「だから………… 男の人にどこか恨みでもあるんでしょうかね?
私がそんな女にならぬよう、母なりの愛情だったのかもしれませんけど……」
「そ、そんなのっ 僕が言えた義理じゃないけど…………
それが愛情だって言うなら、それはどこか歪んでるように思うよ…………」
僕の言葉に風音は黙ってまた涙した。
「わかってます………… 私だってそんなの………… 普通じゃないって…………
でもっ その時の私しかり今もまだ私は未成年なので…………
そんな母でもいなければ…… まだっ 何も出来ない子供なんです…………」
堰を切ったようにぼろぼろと涙をこぼす風音。
けれど、少なからず僕にもその気持ちは痛いほど理解が出来てしまった。
だって今でこそ秋子さんに面倒は見てもらっているものの、
ほんの数年前まで僕もまた片親生活をしていたのだ。
唯一自分を助けてくれる大人を失う怖さ、
そうならないために僕ら子供は、子供ながらに親の矛盾をどこか正当化してしまうのだ。
「随分と辛い思いをしたんだね…………」
「ぐす…… 辛いだなんて………… 思ってしまったらもっと辛いです」
「うん、でもそうやって小利口に生きてると…………」
「はい………… こんなだからきっとストレスもたまっちゃうんですよね……」
風音はやはり頭がいい。でも、だからこそすべてを頭で考えてしまって、
人一倍大きなストレスを感じてしまっているのだろう。