私にも気持ちいいこと教えて下さい-2
「あら?こんな時間に珍しいわね?」
部屋を出るなり聞き覚えのある声が僕を呼び止める。
「あ、雪菜さん…… おはようございます」
「うんっ おはよう!」
元気よく制服姿の雪菜が返事を返す。
綺麗にとかれた御髪に、シワひとつ無いおろし立てのような清潔感溢れる白い制服。
そう言えば雪菜の通う学校はミッション系のお嬢様学校で、
その上品な姿をひと目見ようと、他県から訪れる輩も少なく無いとか……
「どうしたの? ぼーっとして?」
「あ、いや…… こうして見ると本当にお嬢様みたいだなぁって…………」
「あら失礼ね? 本当も何もまごう事なきお嬢様よ?」
そう言って少し頬を膨らます雪菜。
どんなに着飾っていてもこの寮では素の自分を隠す事はない。
「あはは、うんっ ホントだね…… あんまり綺麗だからつい見とれちゃうよ」
「ちょっ………… お、お世辞なんて言っても何も出ないんだからね?」
「お世辞? 僕がそんな事言えるような男に見える?」
「…………も、もうっ 遠藤くんと離してると朝から調子狂っちゃうわ!」
どうしたのだろう? 雪菜は急に頬を赤く染めては背中を向けると、
スタスタと逃げるように玄関先へと歩いて行った。
「それにしても早いね? いつもこんな早く出掛けるの?」
「うん、ここからだと随分と遠いからね…………」
確かに雪菜の通う学校はここから随分と離れた場所にある。
本来ならばもっと近くに住むべきはずなのだが、
自らの性癖を治すべく、彼女は遠く離れたこの花咲寮で暮らすことを決意したのだ。
「ま、自分の選んだ事だからね………… 仕方ないわよ」
「そか………… ごめんね?」
「うん? どうして遠藤くんが謝るのよ?」
「いや、僕が免許のひとつでも持っていればさ…………
毎日でも送っていってあげれるのになって思ってね…………」
そう僕が呟くや、雪菜はまたも背を向け足早に廊下を歩いた。
「ど、どうしたの? なんか僕…… 変な事言ったかな?」
「…………べ、別に」
無言のまま玄関先で靴を履く雪菜。
僕は何か怒らせてしまったのかとひとりあたふたしていると、
ふいに雪菜は振り返り、キツイ目で僕を睨み付けた。
「え、えとっ…………」
「…………」
「ゆ、雪菜さん?」
「そ、そんなんでここを追い出そうとしても駄目なんだからねっ」
「は? お、追い出す? 僕が雪菜さんを???」
予想外の言葉にいっそう慌てる僕を、しばらくジッと睨み付ける雪菜。
けれどもその顔は徐々に赤みを帯びはじめ、
なんだかとても恥ずかしそうにうつむいたかと思うと、
突然、雪菜は両手を僕の首に絡ませ抱きついてきた。
「え? ちょ…… 雪菜さん? ど、どうしたの???」
「う、うるさいっ」
「うるさいって………… ね、ねぇ?」
「もうっ! ホント鈍感なんだからっ!」
そう言うや雪菜は、いきなり僕の頬に唇を重ねたかと思うと、
すぐに逃げるように体を離しては小声で呟いた。
「い、いってくるね?」
「あ、うんっ い、いってらっしゃい!」
目を合わさぬまま、背を向け小走りでその場を去る雪菜。
僕は何が何だかわからないまま、その背中を黙って見送っていた。