私にも気持ちいいこと教えて下さい-19
「け、汚らわしいって…………
そりゃ一部の宗教的な国ではそう言われる事もあるけど、
少なくともいまの日本の性教育でそうは教えない筈だよね?」
僕は風音の言葉にそう返すも、今までの不可思議な言動や歳不相応な偏った知識には、
どこか触れてはいけない根深い理由があるのではと感じてしまった。
「だ、だって…………」
「うん?」
「だってそういった行為をしてるとお母様がっ………… ぐすっ……」
「え? ちょ………… 風音ちゃん?」
風音は必死で言葉を絞りだそうとするも、
思いのほか辛い過去があるのか、突然、涙を流し噎せ返ってしまった。
「ご、ごめんっ 言いたくない事なら無理に言わなくていいよ?」
「ち、違うんですっ ぐす…… つい、昔のことを思い出してしまって…………」
瞳に涙をためたまま、膝を抱え静かにむせび泣く風音
僕はそのあまりに小さな背中に愛おしさを感じてしまい、
思わず無意識に肩をギュッと抱きしめてしまっていた。
「その………… 大丈夫だから落ち着いて?
別に風音ちゃんは何も悪く無いんだからさ…………」
「そんな事っ だってあの時お母様は私を…………」
「お、落ち着いて? あの時って言うのはいつの事? それにお母様って?」
僕は風音に身を寄せ、震える肩を抱きしめたまま、
少しずつその言葉の意味を問いただしていった。
「小学生の頃………… そういう知識をちらほらと耳にしてた時期があって…………」
「うんうん…………」
「その頃はまだ私も………… それなりにエッチな事に興味津々だったんです」
「確かにそれくらいの時期は………… 男女関係無く意識しちゃうもんだよね?」
擦れた声で、すんすんと鼻を啜りながら、
少し、また少しと僕に過去の自分を打ち明ける風音。
「それで、その…… ある日お風呂上がりに…………
つい、ほんとに興味本位でつい自分の性器を触ってみたんですけど…………
タイミング悪くお母様がちょうどその最中に部屋に入ってきてしまって…………」
「はぅ………… そ、それはちょっとしたトラウマを抱えても…………」
「……………………殴られたんです」
「……え?」
「その瞬間、母はすごい剣幕で私を………… 何度も何度も殴りつけたんです……」
僕はまたしても絶句してしまった。
確かにそんな状況に接してしまったら、
たとえ親と言えど取り乱してしまう事くらいあるだろう。
けれど、だからって暴力に訴えるなんて行為、どう考えても正しいとは思えない。
「何度も蹴られ殴られては………… 私を蔑むような目で汚らわしいって…………」
「も、もういいよっ 風音ちゃん! もういいから…………」
風音は小刻みに体を震わせながら、まるで当時を思い出したかのように、
どこか放心したまま焦点の合わない目で遠くを見つめていた。