立ちこめる湯気の向こう側-5
風音に言われるがまま、僕はその体勢のままでじっとしていると、
わずかに時間をおいて、風音が立ち上がる気配を感じた。
「ぜ、絶対に振り向かないでくださいね?」
「う、うんっ もちろんわかってるよ」
湯船の体積が少し減り、ひたひたと濡れたタイルを歩く音を耳にしながら、
振り向きたい衝動を必死で抑えている僕。
「ま、まだですからねっ?」
「う、うん」
こんな時でも風音はその性格からか、脱衣所を無駄に濡らさぬよう、
体についた水をタオルで軽く拭き取っているようだ。
(な、なんだろう…… なんだか妙に興奮しちゃうな…………)
僕は立ち竦んだまま、ソワソワと風音が浴室を出るのを待っているも、
ふと、シャワーの前にある鏡に目をやっては、
思わず叫びそうな声を必死で押し殺した。
立ちこめる湯気と水滴でろくに用を足さない風呂場の鏡。
けれど風音が少しドアを開けた事で外の空気が入ると同時に、
スーッと湯気が薄らいでは、鏡にその美しい肢体が映り込んでるではないか。
(うそっ!? み、見えちゃってるよ…………)
考えてみれば普段の風音は、潔癖と言われて頷けるほどに肌の露出が少ない。
その潔癖さは外に出るときはもちろん、
寮の中でさえ生足でいるのを見た記憶が無いほどだ。
そんな風音の一糸纏わぬ姿が、後ろ姿ながらに鏡越しに見えているのだから、
否応無しに僕の体は本能に忠実な反応を示してしまうわけで…………
着やせするタイプなのか、意外と肉付きがよく、
キュッと締まったウエストの下に見える形の良いおしりがとても色っぽい。
(だ、駄目だ駄目だ! み、見ちゃ、見ちゃいけない…… んだけど…………)
「そ、それじゃ遠藤くん ごゆっくり…………」
「あっ う、うんっ!」
風音が振り返った瞬間、思わず見えそうになったふたつの膨らみに驚き、
僕の声はちょっとだけ裏返ってしまった。
(風音ちゃんのってあんなにおっきかったんだ…………
雪菜さんと大差ないじゃないか…………
そりゃ、あの下着を見て雪菜さんのものだと勘違いするわけだよ)
僕は入りがけに見た黒い下着を思いだしてはまた少し顔を赤らめた。
人は見かけによらないと言うけど、まさかあの風音ちゃんが黒い下着だなんて、
これこそがまさにギャップ萌え───そう美咲さんに教えてあげたい気分だ。
しばらく時間を空け、いや、正確に言えば体の一部が鎮まるのを待っては、
ゆっくりと浴室を後にする僕。
脱衣所にはすでに風音の姿は無く、もちろん黒い下着も一緒に消えていた。
(はぁ………… ちょっと湯あたりしちゃったかな…………)
僕はいそいそと着替えを済ませると、自室には戻らずその足で管理人室、
つまりは秋子さんの部屋へと向かっていった。