立ちこめる湯気の向こう側-4
「私は、その…… ちょっと潔癖症みたいなんですよ…………」
「潔癖? あ、じゃぁひょっとしてこうして他人とお風呂なんか入るのは…………」
「いえ、それはその大丈夫なんですが………… えと…………
せ、性的な部分において………… と言えば伝わるでしょうか?」
「性的な部分において………… 潔癖…………」
それを聞いて僕は、ふと美咲さんの言葉を思い出していた。
「潔癖すぎて頭が硬いからこそ………… そんな自分が時々許せなくなるんです」
「例えば? 具体的に言うとどんな事?」
「そ、それは………… さすがにここじゃ恥ずかしくて言えません…………」
そう言って風音はまた黙り込んでしまった。
美咲さんの言葉───必ずしも誰もが自分の性癖に向かい合えるとは限らない
あれはやはり風音の事を言っていたのだろう。
おそらく風音は性的な事を考えてしまう自分が許せないのだ。
活字中毒からの妄想および言語の過敏症である風音。
けれど反面、そんな自分を許すことが出来ないもうひとりの潔癖な自分。
そんな自分に悩み苦しむからこそ、
奔放な雪菜や雫につい苛立ちを感じてしまうのではないだろうか。
「焦る事は無いよ? 僕はいつだってここにいるんだからね」
「…………はい」
「きっと風音ちゃんは、いままでずっとひとりで思い悩んでいたと思うけど、
それじゃいつまでたっても解決にならないと思ったから…………
だから秋子さんの勧めもあってこの寮に入ったんじゃないの?」
「…………そう …………そうなんですけどっ」
「男の僕に相談するのはさ、確かにそれはそれでハードルが高い気もするけど…………
その………… 待ってるから………… 気が向いたらいつでもおいでよ?」
「遠藤さん………… ありがとうございます♪」
少しだけ、風音の声が明るくなったような気がした。
未熟な僕になかなか心開けない気持ちはよくわかるけど、
僕だってみんなの役に立ちたくてここの管理人を引き受けたのだ。
(風音ちゃんが安心して相談出来るよう、僕ももっと頑張らなきゃな…………)
そう思い僕はギュッと拳を握りしめると、
勢いあまって思わずその場に立ち上がってしまった。
「な、なに? ど、どうしたんですか遠藤さんっ」
「あ、いやっ 気合いが入りすぎてつい…………」
「も、もうっ 私そろそろ出ますからっ そ、そのまま後ろ向いててくださいっ」