立ちこめる湯気の向こう側-3
恥ずかしそうに黙ってうつむく風音。
僕はあまりのばつの悪さに慌ててその場を離れようとするも…………
「あ、あのっ 大丈夫ですからっ その………… と、とにかく湯船に…………」
そう言ってはすぐさま僕に背を向ける風音。
僕はとりあえず言われるがままに再び湯船へと体を浸けるも、
出来るだけ風音を見ないよう、足を折りたたんでは背中を向けた。
「え、遠藤さんはいま来たばかりでしょ? 私は、その、もう上がるとこだから……」
「ご、ごめんねっ その…… ホントにわざとじゃないんだよ?」
互いに恥ずかしさのあまり小声で呟きあうも、
お風呂場ならではの反響により、やたらと声がこだまする。
「だ、脱衣所に着替え置いてあったの………… 気がつきませんでした?」
「あ、えと………… はい…… 気づいたけど勘違いしてました…………」
「…………勘違い?」
「う、うん…… その………… さっき廊下で雪菜さんたちに会ったからさ、
てっきり雪菜さんの洗濯物なのかと…………」
「ひどい! お、おろし立てだから汚れてなんていませんよっ?」
「あ、うんっ 汚れてないっ 全然汚れてなんてなかったからっ」
「…………な、なんで汚れてないって言い切れるんですか?」
「あ、いやっ それは……………………」
僕は風音と背中合わせで会話するも、何を言っても裏目に出てしまい、
あまりのばつの悪さに困り果てた末、いつしかすっかり言葉を失ってしまっていた。
「あの二人…………」
「え?」
「積木さんと雨宮さん………… とても仲がいいですよね…………」
「あ、ああ、ホント姉妹みたいだよね?」
「ええ、さっきも食堂であれこれ会話してるうちに、なんだかんだ言いながら結局、
積木さんが雨宮さんの勉強を見てあげる事になっちゃったんですよ?」
「ああ…… なんかそんな事言っていたなあ…………」
「ふふ、ホント仲が良くて………… 羨ましいな…………」
チャポチャポと手でお湯を掻き集めながらそんな事を呟く風音。
「そんな、風音ちゃんだって………… ふたりと充分仲いいじゃない?」
「そうでしょうか? なんだか私って………… ちょっと頭が硬いから…………」
姿は見えないけれど、どこか少し寂しそうな雰囲気の風音に、
僕は思わず後先考えず後ろ手で風音のおしりをツンと突っついてみた。
「きゃっ!!! な、何するんですかっ……」
「あはは、全然硬くなんてないよ? むしろプニプニとして柔らかいんじゃない?」
「そ、そこじゃなくて!? あ、頭が硬いって言ってるんですっ えっち!!!」
恥ずかしそうにバシャバシャと僕にお湯をかける風音。
よかった、冗談が通じなかったら完全に警察に通報されるレベルだ。