立ちこめる湯気の向こう側-2
(えっと、洗濯カゴは………… っと)
雪菜に言われた通り、脱衣所にある洗濯カゴへとズボンを投げ込むも、
ふと、すぐその隣にあるカゴの中に、
なにやら衣類らしきものがタオルにくるまれているのを発見した。
(うん? なんだこれ?)
僕はそれを手に取り、おもむろに目の前で広げて見るも、
それが女性の下着だと理解するや思わず顔を赤らめてしまった。
黒いブラにレースのパンツ───細かなサイズまではわからないが、
何と言うかそこはカウンセリングのたまもの、
サイズからして雪菜のもだと疑う余地もなかった。
(はぅ…… まったくあの子は…………
黙っていれば深窓の令嬢と呼ばれるのも頷けるけど、ここまで奔放だと…………
いや、それはそれでお嬢様育ちだからこそとも言えるのかな…………)
そんな事を考えながらも僕は、思いのほかその下着をマジマジと見つめてしまう。
だって男にとって下着そのものと身につけた状態とでは色々とわけが違うのだ。
いくら下着姿を見慣れてるとはいえ、こうして間近でそのものを手にすると、
なんだか少し変な感じがするわけで…………
(って、何をしてるんだ僕は………… やっぱりどこか疲れてるのかな?)
ふと我に返った僕は、慌ててカゴの中へとそれを戻すと、
ドアを開け、駆けるように浴室へと入っていった。
立ちこめる白い湯気、ほんのりと香る石鹸の匂い、
大浴場とまでは言わないまでも、数人は余裕で入浴出来る花咲女子寮のお風呂場。
僕は軽くシャワーで汗を流すと、少し興奮気味の体を落ち着かせながら、
ゆっくりと湯船の中へと腰を下ろしていった。
(ふぅ………… やっぱり広いお風呂はいいなぁ…………
そう言えば秋子さんがいつか温泉にいきたいとか言ってたけど…………
今度休みが取れたら誘ってみようかな?)
なんて暢気な事を考えながら周りを見渡していると、
ふと、立ちこめる湯気の向こう側に、なにやら人影らしきものが見えた。
「えっ!? だ、誰かいるの?」
僕は驚いてその場に立ち上がると、
その瞬間、どこかで聞き覚えのある声が耳に飛び込んできた。
「きゃっ!? も、もしかして遠藤さんですか?」
霧が晴れるように湯気が薄らぎ、
朧気な人影が次第にはっきりと人の形を成していく。
「か、風音ちゃん!? う、うそっ ごめんっ!!!」
僕が慌ててそう言うも、風音は驚きのあまりすっかり声が出ない様子。
互いに硬直する体、思わず視線を逸らす二人、
けれどその瞬間、まるで何かに視線を奪われたように風音の表情がいっそう強ばった。
「え、遠藤さん………… その………… ま、前を……………………」
「………………うん? って、ああっ ご、ごめんっ!!!」
僕はその視線の行方に気がつくや、慌てて両手で股間を覆い隠した。