〈冷笑〉-3
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「あ……八代さん」
すっかり日も落ちた時刻。瑠璃子は呼び出されたコンビニの前で待ち、現れた八代の運転する車の助手席に乗り込んだ。
肩に掛かる栗毛色のセミロングの髪はサラサラとなびき、パッチリとした瞳はあどけなさすら感じさせる。しかし、その身体は美しい曲線を描き、胸や腰の括れは見事の一言に尽きる。
八代と同じグレーのスーツは、そのまま仕事帰りを意味していたし、そのペアルックは二人の関係をそこはかとなく滲ませる。
隣り合う二人……瑠璃子は照れ臭そうに右手を伸ばし、フロアシフトに添えられた八代の左手に触れた。
『どうやらお姉さん達は犯人の手掛かりを掴んだらしい……潜入捜査の情報だから、誰にも言ったら駄目だぞ』
八代の厳しい声に、少しだけ瑠璃子は表情を強張らせたが、直ぐに優しい表情に変わり八代の左手を握った……。
……八代が専務に話した事には嘘があった。
瑠璃子は麻里子が拉致された次の日、なんの連絡も無く帰宅しない麻里子を心配して、仲の良かった八代に聞きには行った。
しかし、そこで八代に諭され、瑠璃子は他の刑事にまで聞きに行く事はなかった。
その日の夕方。
八代は自分の車に瑠璃子を乗せ、あの港まで行った。その車内で、八代は暗い表情のまま俯く瑠璃子に優しく、そして驚愕するに値する言葉を掛けた。
『麻里子さんは特殊処理班に配属されたらしい……名前くらいは聞いた事はあるよね?』
「……と…特殊処理班……名前だけは……」
[特殊処理班]
超法規セクションの名前であり、目的遂行の為なら、現行法律を一切無視して行動出来る特殊組織である。銃器の扱いは勿論、逮捕術を上回る格闘術にも長け、格段の殺傷能力を有する集団である。
『どうやら君の御祖父様は大変な事件を任されたらしい。麻里子さんも“あいつら”と一緒なら絶対に間違いは起きない……まあ、俺もこれ以上は調べられないって事になるけどな』
瑠璃子は、警視総監である御祖父様と自分達しか知らない事態を八代の口から聞き、安堵の声を漏らした。特殊処理班と行動を共にするなら、帰宅は事件解決まで有り得ないし、美津紀や文乃の救出も時間の問題とまで思えた。