相変わらず君は罪な男だな-1
「美咲さん? ご飯持ってきましたよ?」
「はいはぁ〜い! 待ってたわよ和也くん♪」
僕がドアの前でそう声を掛けるや、待ちかねた様子で姿を見せるひとりの女性。
彼女の名前は陽向美咲───秋子さんの大学時代の後輩で確か今年で二十四歳。
同じ性心理学を学びながらも、
独立してカウンセラーを開業した秋子さんとは異なり、
そのまま大学に居座ってはひとり、今も淡々と研究を続けているらしい。
「はぁ…… たまには美咲さんも食堂でみんなと食べましょうよ?」
「あはは、書かなきゃいけない論文が随分と溜まっててね」
「あと、その恰好………… いくら男が僕だけだからって少しは自重してください」
「うん? ちゃんと履いてるじゃない?
君にはお姉様のこの色気ある赤いパンティが見えないのかな?」
「パンティって………… 昭和ですか…………」
男物の大きなTシャツに下着だけを履いた状態でこれ見よがしに胸を張る美咲さん。
はじめは僕もそのラフすぎる恰好に、ドギマギして目のやり場に困っていたけど、
さすがにこう毎日この恰好をされていると、悲しいかな目も慣れてしまう。
「相変わらず君は秋子先輩の前以外じゃ連れないなぁ…………
たまには他の女を抱いてみたいとか思ったりしないのかな?」
「な、何を言ってるんですか唐突に………… 僕は生涯秋子さん一筋です!」
我ながら恥ずかしい台詞だとは思うが、美咲さん相手に駆け引きは通じない。
だてに数年間秋子さんの助手を務めていただけあってか、
その洞察力しかり心理戦なんて抗う方が愚の骨頂と言うものだ。
「むぅ………… そりゃ先輩に比べればスペック落ちするかもだけど、
でもでもっ 抱き心地と感度はどの女よりも最高だといつも褒められるのよ?」
「はいはい………… どうでもいいですからさっさと食事を済ませてくださいな」
そう言って僕は美咲さんにお盆を差し出すと、
踵を返してはさっさと部屋に戻ろうとしたのだが…………
「そう言えば和也くん? なんだか今日は随分と疲れてるように見えるけど大丈夫?」
「え…………? そ、そんな事は…………」
「それに、何だか悩んでいるようにも見えるわ…………
たまにはカウンセリングするばかりでなく自分の相談でもしてみてはどう?
こう見えても私は、君よりずっと前からあの先輩の元で助手をしてたのよ?」
「はぁ………… いったいどこまでお見通しなんですか?」
僕は大きく溜息をつきながら肩を落とすと、
ポリポリと頭を掻いては再び美咲さんの方へと振り返った。
「…………襲わないでくださいよ?」
「にひっ それはどうかな? 最近ご無沙汰だから随分と欲求不満だし」
「それじゃぁ、おやすみなさい」
「うそうそっ! 立ち話もなんだから早く入りなさいな♪」
僕はまたも大きな溜息をつきながらも、
美咲さんに導かれるがまま、ゆっくりと部屋の中へと足を踏み入れていった。