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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』第14話-24

「……そんなこと、ないよ」
 桜子は、胸に手を置いて、小刻みな鼓動を続ける心臓を宥めるように、ひとつ深い息を零す。大和の苦しみに根ざしているものを、彼女はもう見つけていた。
「あたしは、大和のことを、何があっても絶対に応援する。だって…」
「………」
「あなたのことを、愛してるから」
「桜子……」
「ふふ。大和は、もう、心に決めているよ。だから、そんなに苦しそうな顔を、してるんだよ」
「………」
 桜子の言うとおりであった。大和は、壬生から渡されたこのトライアウトに挑戦したいと、考えている。そこから始まる“プロへの道のり”に、チャレンジしたいと強く感じている。
 苦悩するのは、それによって周囲を裏切ることになるかもしれないという、自分勝手な理屈があるからだ。
「多分、これを逃したら、大和はきっと後悔する。あたしは、後悔しながら野球を続ける大和のことを、見たくなんてない」
 自分の決意によって、誰かを傷つけることに、大和は怯えている。それで一歩を踏み出せないでいるのだとしたら、その臆病さを叱咤しなければいけないと、桜子は思った。
 一緒に野球が出来なくなる…。当然、そのことは頭をよぎった。そして、本音を言えば、それは悲しくて、避けたくて、声を大にして止めたいことでもあった。
 だが、それを強いてしまったら、多分、自分自身も後悔することになる。羽ばたこうとしている大和を、拘束してしまった自分のことを、きっと許せなくなる…。
「だから、大和。あなたの心のままに、決めていいんだよ」
「……わかった」
 確かな決意の眼差しが、大和に蘇った。
「僕は、トライアウトを受ける」
「!!」
 彼は、自分の決意を、周囲に認めてもらうために伴うであろう様々な“痛み”を、背負う覚悟を決めたのだ。
「もちろん、筋は通さなきゃいけない」
 大学に通わせてくれた母・和恵。エースとして自分を頼りにしてくれている、チームの皆。そして、なにより、自分の決意を応援してくれた、桜子に…。
「後期に残された試合は、最後までやり遂げる。そのうえで、プロへの道のりに、僕は挑戦する」
「なら、約束して」
「?」
「絶対、諦めないって。大和がいま、心に決めたことを、やり抜くって、約束して」
 言いながら桜子が、右手の小指を差し出してきた。
「でないと、あたし、泣いちゃう、から……」
 言葉とは裏腹に、桜子の瞳から雫が幾筋も零れ落ちていた。決意に対する葛藤が、止まらない涙となって、その頬を濡らしていた。
「約束する」
 大和は、自らの小指を、力強く桜子のそれに絡み合わせる。自分の決意を受け止めてくれた、愛する人に、繋いだ場所から思いの全てを注ぎ込む。
「それと、僕も……」
「?」
「桜子。きみを、愛している」
「!」
 初めて、多分、初めて“愛してる”と、言われた。“好き”から進化した、互いを尊び思いやる、透き通った炎のような熱い感情…。
 自分が大和に抱いているものと同じ感情を、彼もまた言葉で示してくれたのだ。
「大和……大和……!」
 桜子は、その熱い想いに揺さぶられて、たまらなくなったように大和の胸に飛び込んだ。
「桜子……」
 大和は、弾ける思いとともに受け止めた桜子の身体を、強く抱き締める。どんな言葉を口にしても、桜子に対しての熱い思いを、完全に形作ることはできない。
「愛している、桜子……」
「あたしも……あたしも、愛してるよ……」
 たとえ陳腐だといわれようが、それ以外の言葉を何も持たない二人であった。


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