みんな我慢が足りないんです!-3
「え? か、風音ちゃん………… どうしたのさ急に?」
「だってそうじゃないですか?
せ、性欲が押さえきれないからといって悩むのはわかりますがっ
だからって我慢しなくていいってのとは何か違うと思います!」
「ちょ、ちょっとまってよ…………
そりゃ我慢は必要な事だし大切な事だとは思うよ?
でも、それを越えて悩んでいるからこそこの寮があるわけで…………」
咲花女子寮はあらかじめ秋子さんのカウンセリングを受け、
重度の性心理障害を持つと判断されたものだけが集う病理棟だ。
何かしらが原因で異常性欲に悩む女性の精神を少しでも緩和するため、
集中治療とまでは言わないが、いつでも常時それに対応出来るよう僕がいるわけで……
「だからっ! そもそもが我慢しなくていいなんて治療法事態がっ…………」
「風音ちゃん!!!」
「…………っ」
珍しく声を荒げる僕に驚き萎縮する風音。
「いくらなんでもそれ以上言うのは許さないよ?
僕の不甲斐なさを責めるならまだしも治療法を否定するのは…………
それは他ならぬ秋子さんを侮辱する行為だよ。
ここに住んでる以上それだけは言っちゃいけない、いや………… 言わせないよ?」
たしかに風音の言わんとする事は解らないわけでもない。
性に関する悩みのほとんどは、それをどう克服するかにかかっており、
ここ花咲女子寮で行う僕の役割───性欲処理への助力とは欲望の解放、
つまるところ風音の言う通り、克服とは相反する治療法とも言えるからだ。
「…………だ、だって」
「僕はまだ風音ちゃんの相談を一度も受けていないから…………
正直その悩みの重さも、どうしてそんな事を言うのかもわからない。
けど、同じように風音ちゃんだってあの子たちの悩みは知らないでしょ?」
「そ、それは………… そうですけど……」
「知らないのに我慢が足りないなんて言うのは少し早計じゃないかな?
もちろん互いの性癖に干渉するのは御法度ってのもあるだろうけど…………
形は違えど風音ちゃんだって同じように悩みを抱えてここに住んでるんでしょ?」
「……………………」
僕の言葉を耳にしながら黙ってうつむく風音。
少し強く言いすぎたかとも思ったが、雪菜や雫を悪く言われた事しかり、
他でも無い秋子さんの考えを否定されてしまうのはどうにも許せなかった。