みんな我慢が足りないんです!-2
茹でた糸こんにゃくに、人参、玉葱と野菜を加え、
先に炒めておいたお肉を混ぜては味付けをしながら弱火で煮込む。
手際よく料理を作る風音を横目に、僕は食卓の準備をしながら、
ぼんやりと秋子さんの言葉を思いだしていた。
「滝川風音は雪菜くんや雫くんと違ってまだ性に未成熟なのだ……
その事をちゃんと理解した上で接してあげないと大変な事になるぞ?」
「未成熟って………… いったいどういう意味ですか?」
「うむ、口で説明するのはなかなか難しいんだが……
とにかく彼女は頭がいい…………
けれどそれが故にすべてを頭で考えてしまうクセがあってな…………」
「はぁ…………」
「なんというのか…………
本来あの年頃の娘だと知っていて当たり前の感情が色々と抜けている……
いや、抜けていると言うよりむしろ実感出来ないからこそ悩んでいるのだ」
「当たり前の感情が実感出来ない………… ですか…………」
風音がこの寮に来てから、はや半年が経とうとするが、
実のところまだ僕は彼女のカウンセリングを行っていない。
僕の立場はそもそもが受け身であるがため、
クランケである彼女から相談が無い限り、
出しゃばってその性癖に立ち入る事は立場上慎んでいるのだが…………。
「遠藤さん? どうしたんですかぼーっとして?」
「あ、いや、ごめん…… ちょっと疲れが出ちゃって…………」
そう言って僕がゆっくりと椅子に座ると、
下拵えが整った風音もまた、正面の椅子にそっと腰を掛けた。
「まったく………… そんなになるまであの子達に付き合って…………
あんまり無理すると体壊しちゃいますよ?」
「あ、いやっ 別に彼女達が悪いわけじゃないんだよ?
僕にとっては彼女達と接するのも立派な仕事のうちなんだから…………」
「にしてもですよ………… だいたいみんな我慢が足りないんです!」
突然どうしたのか、いつもはカウンセリング内容に我関せずの風音が、
少し身を乗り出して興奮気味に語彙を荒げはじめた。