春-9
……でも、嬉しい。
みんな、きっと私達のことをそれだけ気にかけてくれていたのだから。
チラッと横にいる土橋くんの顔を盗み見れば、真っ赤な顔を見られたくないかのように俯いて、悔しそうに舌打ちなんかしちゃってる。
いつも私をからかってばかりの彼が、すっかり形無しになっている様子に、ついつい顔がにやけてくる。
私のにやけ顔を横目で覗き見た土橋くんは、
「何ニヤニヤしてんだよ、気持ちわりいな」
と力無く悪態を吐くだけだった。
「俺……疲れたからそろそろ教室に戻るわ」
土橋くんは私にそう言うと、軽く手をあげてクルッと背を向けた。
しかし、心なしかグッタリしている彼に追い討ちをかけるように、
「あ、おれも行くよ!」
と、歩仁内くんが声をかけてきた。
「あ? ついてくんなよ」
土橋くんはジロリと歩仁内くんを睨んでから、犬を追い払うようにシッシッと手を払った。
「そんなあ、仲良くしようぜ。せっかく同じクラスなのに」
その言葉に、彼はギョッとした顔で歩仁内くんの顔を指差した。
「お前……」
「そう、A組。よろしくね」
「マジかよ……」
土橋くんは盛大なため息をついてヨロヨロと昇降口に歩いて行った。
その横を歩仁内くんが、尻尾を振ってじゃれつく犬のように、いろいろ話しかけている姿が見える。
ポカーンと口を開けて二人の後ろ姿を見送っていると、江里子が私の肩をポンと叩いた。
「わたし達もそろそろ教室に戻る?」
江里子は眼鏡をクッとあげてから私に微笑んだ。
「江里子……歩仁内くんとそんなに仲良かったんだ」
「んー、わたしクラス委員してたから生徒会と結構集まる時が多くてさ。そこから……かな」
「じゃあ最近失恋して、そのあとに歩仁内くんに告られたの?」
以前、生徒会室で歩仁内くんに話を聞いてもらったときに彼の好きな人の話になったことがあった。
その時彼は、自分の好きな娘が完璧に振られるのを待つとはっきり言っていたのだ。
恥ずかしながらそれは自分のことだと思っていたが、どうやら私の完全な勘違いだったのだ。
よく考えたら、私がそんな都合よくモテるわけがない。
「ん、まあ……わたしもそれなりにいろいろあってさ」
江里子は頬を赤らめて口元を手で覆い隠した。
「じゃあ、後でじっくり話聞かせてね」
私はニヤリと笑って江里子を見た。