春-11
和やかな雰囲気になってきた所で予鈴がようやく鳴りだした。
あれだけガヤガヤ騒がしかった人だかりは、もはや私達だけになっていた。
「じゃあ、あたしたちも中に入ろ」
沙織は私からそっと体を離すと、満面の笑みを向け、昇降口に向かって歩き出した。
大山くんも江里子も、とっくに下駄箱の前で上履きに履き替えている。
慌てて私も校舎に入ろうと沙織の後に続こうとした。
だけど、その瞬間にビュウッと突然強い風が吹いて、私は思わず立ち止まって、巻き上がる髪の毛を抑えつつ、目を細めて空を見上げた。
視界に入ってきたのは、まるで掲示板を覆うように植えてある大きな桜の木。
枝しかない寒々しい桜の木も、よく見るといっぱいつぼみがついている。
北国の春は少し遅い。
桜が咲き始めるにはまだしばらくかかるけど、少しずつ春に向けてスタンバイをしているのだ。
長い冬を経て、少し遅い春を迎えつつある無骨な桜の枝が、おこがましくも自分と重なる。
花を咲かせるタイミングを伺っている桜の枝を眺めながら、自分の今ある状況に少し戸惑いを感じた。
今まで私が何か岐路に立たされたときに選んで来た道は、どれも間違えていたり遠回りだったりで、上手く正解を選べていないことばかりだった。
だから私は、そういう星の元に生まれついた人間なんだとずっと思っていた。
もしかして、今回の選択だって間違えてしまったのかもしれないと思うときすらある。
私は郁美より土橋くんを選んだけれど、郁美を失った痛みは思ったより深く残って。
この胸の痛みはいつ癒えるかはわからないし、もしかしたらずっと心のどこかでくすぶり続けるかもしれない。
でも、それでも、これが私の出した答え。
正解でも不正解でも、私は前に進むしかないんだ。
たとえ間違えていたって、彼が隣であの意地悪な笑顔を私に向けてくれるなら、なんとか歩いていけるだろう。
私はブレザーのポケットに入っている携帯のストラップを握り締めた。
そして、風に巻き上げられた髪を手ぐしで整えながら、私も足早に沙織の後に続いて校舎に入った。
―――完―――