春-10
「それより桃子の話が先でしょー!」
突然背後から沙織がガバッと抱きついてきた。
シャンプーの甘い匂いがふわりと広がる。
「沙織……」
「いつの間にそんなことになっちゃったわけ?」
後ろから私の顔を覗き込んで来たその大きな瞳が、どことなく潤んでいる。
つられて私も涙がこぼれそうになった。
「だよな。さんざんオレらに心配かけといて知らないとこでくっついてんだもん。ちゃんと説明してくんないと」
大山くんがニヤニヤした顔を私に向ける。
「だって……つい昨日のことだったし、二人にはちゃんと今日報告するつもりだったもん」
私は鼻をズズッとすすり上げてから、二人の顔を伺うように見た。
「じゃあ今日は学校が終わったら、石澤さんと修のおごりでなんか食いに行こうぜ。んで、そんときにじっくり話を聞くと!」
彼がそう言うと、沙織は私の身体に手をまわしたままパチパチ叩いて、
「さんせーい! あ、よかったら歩仁内くんも誘っておいでよ」
と、江里子にも微笑んだ顔を向けた。
「じゃあ、お邪魔させてもらおうかな」
江里子も嬉しそうに微笑み返す。
不意に、歩仁内くんにまとわりつかれて土橋くんがウンザリしている光景が目に浮かび、私は小さく噴き出した。