そのチップが始まりだった-1
満員電車。
ぼくは、なるべく流れに逆らわない様に、揺れに、体をあわせている。
高校のブレザーもカバンも潰され、体力が消耗していく。
後ろの親父に「寄りかかりすぎだろ」と心の中で悪態をつくが、
それに合わせて、前のお姉さんのお尻に当たる手の甲に、全神経を集中させていた。
邪念が入らないように、目をつむって寝たフリしていたが、
お尻の弾力と髪の毛の香りが、どんな顔してるのか気になって、目を開けた。
後ろからは見えないが、スタイルは抜群に良い。
彼女を通り越してドアのマドを見るけど、朝の町並みが見えるだけで、彼女の顔は映らなかった。
勇気を出して首を曲げたのに、髪の毛で顔を確認できない。
すると突然、短いトンネルに電車が入り、ドアのガラス越しに彼女の顔を見た。
まるで女優さんの様に綺麗な顔をしていた。
少ししか見えなかったけど、このお尻の持ち主が美人であることに、僕はうれしくなった。
また、大きく電車が揺れると、運良く後ろの親父が一歩下がってくると、
さらに彼女にくっつくことが出来た、
僕は体前面で、彼女の背中を感じた。
でも手の甲が、あまりにもガッツリお尻を触るのは、まずいと感じて、
手を横にずらし、片手カバン、もう片手を上のつり革に掴まることにした。
当たり前だが、手がなくなったので、股間をモロに彼女のお尻にこすりつける形になる。
僕は後ろの親父の攻めを耐えているフリをして、つり革の手に力を込めるが、
体は押されるがまま、彼女に寄りかかった。
少し横に揺れると、彼女のお尻が僕の股間を刺激して、大きくなる。
一物が立っているのがバレてるかもしれないけど、
こんな美人なんで遠慮すると後悔すると思い、揺れるたびに股間を押し付けた。
満員電車っていいもんだ。
今日は良い日だと思いながら彼女の頭を見ると、つむじから小さく四角い物が出てきた。
(なんだろう?)
3ミリ程度の四角いものは、電車の揺れでスルスルを髪の毛から落ちてきた。
気になった僕はつり革の手を離して、目をこするふりをしてその物体を掴んだ。
小さすぎて確認できないので、指でつまんだまま、つり革に手を伸ばすと、すでに他人に取られていた。
マジかよ、と思うが睨む事は出来ないので、捕まる所を探してた矢先に、ブレーキがかかる。
とたんに人の波が押し寄せて、あっと言う間に美人から離れてしまう。
なんてことだ、幸せな時間は短かった。
惜しむ思いで彼女を見ると、周りを気にせずにモゾモゾと動きだし、手を頭の上にもってきて髪の毛を触っている。
(なんか探している感じだ、このチップだろうか。)
彼女は、前の人を手で押して空けると、床を凝視している。
その後ろの親父は、押し付けられる彼女のお尻を僕の時のようにダイレクトに楽しんでいる。
次の駅に着き、乗り換えする人が多いから、大量の人が車内から出ていった。
その間中、人の迷惑を考えていないのか、美人はしゃがんで床を必死に探している。
さらにホームからチビデブのスーツにリュックをかけた男が急いで入って来ると、
何も喋らないのに、一緒になって床や彼女の背中を確認していた。
何か異様な雰囲気だ。
発車した電車の中で、彼女は上着を脱いでパタパタ振っていたが、目的の物は結局見つからず諦めたようすだ。
そして突然、
彼女がチビデブの顔を掴んで濃厚なキスをしだした。
車内中、皆びっくりして見ている。
さらに男は彼女の胸をスーツの上から揉むと、彼女は片手を男の股間に伸ばしてしごいている。
(なんだ、これは……)
唖然として見てるのは、僕だけじゃない。
AVの撮影なんだろうか?
こんな通勤時間からするのか?
たくさんの疑問が沸き起こるが、
次の駅のアナウンスが入ると、二人は離れて何も会話をしないでカバンから携帯を取り出し、赤外線通信でメアドを交換していた。
(知り合いじゃないのかよ。
ネットのあやしいクラブなのだろうか?
もしそうなら、こんな美人とキスできるなら僕も参加したい。)
携帯をしまい男はその場から離れて、彼女はドア窓の外を見ている。
まるで他人のようだ。
少しすると彼女は急にキョロキョロと外を見てから、車内の掲示板を見て、そわそわしだした。
次の駅についたとたん、駆け足で反対のホームに向かっていった。
(なんだったんだろうか……)
車内に残った、チビデブはカバンからピルケースを取り出すと、
ケースから小さい黒いチップを何個もだして、一つ掴んでから元に戻し、
嬉しそうに車内を歩いて違う車両に行ってしまった。