温泉街 姫美のピンチ-2
幾ら姫美が小柄だと言って、抱えて走るには無理がある。姫美の夫はヒイヒイ息を切らせながら走っていたが、姫美は遼の事より違うことを心配していた。
「ああん、抜けちゃうよう、抜けたら参加できないよう」
抱えられて手の自由の効かない姫美は、自分の股間から抜け落ちそうになってる瓶のことしか頭になかった。悪い事に淫らな姫美の股間は瓶に反応して愛液が止まらなかった。
「はあはあ、ばか!それどころじゃないだろ、はあはあ、股を締めて抜けないようにしろ」
「うん、わかったあ。ウンッ!」
姫美は愛する夫の言う通りに、気合を入れて股間に力を入れた。しかし、潤滑油たっぷりの状態で、尚且つ半分抜けかかった物を中から締めつけようとしたらどうなるか?
初めに姫美の股間を襲ったのは『ずにゅり』といった感触だった。
「あっ…」
満たされていたモノが無くなる空虚感が襲い、直後に『カチン!』とアスファルトに瓶が落ちる音が後方で響いた。
「いや―――!止まって止まって、下ろして〜!」
姫美がジタバタと暴れるので、限界を超えていた遼は走るのを止めて姫美を下ろした。
はあはあと荒い呼吸をしてへたり込む遼には構うことなく、姫美は瓶が抜け落ちたであろう場所をキョロキョロと探した。すると落ち方が良かったのか、瓶は割れもせずに道路の端に落ちていた。
姫美はホッと安心し、慌ててその瓶に駆け寄ろうとした。その姫美の動きが空気を動かし、重力と瓶の摩擦力の微妙な釣り合いを崩した。瓶は重力に従い、かまぼこ状のアスファルトの上をコロコロと道路の端に転がり出した。
「あっ!待っ…」
姫美はこの時、夢の中のように体の動きが鈍くなったように感じた。重い体はまるでスローモーションのようで、気ばかりが急いて全く動かず、遠く伸ばした手も虚しく空を掴む。
「むわあっつてえええええ」
姫美のあらん限りの叫びは届かなかった。無情にも瓶は道路の端で止まることなく、ガードレールの下をすり抜けて道沿いに走る温泉街の川に落ちていった。
『ぽちゃん!』
「ああああああ」
姫美はようやく自由に動くようになった両手で口を被った。
「あらら、落ちたのか」
「ど、どうしようどうしよう、瓶が無くなっちゃったよう」
姫美は子供のようにオロオロとし、その目から涙がポロポロと溢れていた。
自分の体内で温め育んできた姫美にとって子供のように愛おしい瓶。それが目の前で無くなってしまったのだ。姫美の心は悲しみで満たされてしまった。
「よしよし、一生懸命に頑張ったのにな」
遼は姫美の頭をやさしく撫でた。
「あ〜ん、どうしよう」
遼は姫美の涙に弱い。が、エロに対する真摯な姿勢にもっと弱い。いや楽しい。姫美の頭を撫でながらこの状況をさらに楽しめることが無いかを考えていた。そんな遼の目に有る物が映った。
「ん?アレは?」
遼は手を止めて、目に映った物をじっくりと端から見直した。
「どうしたの?」
「おっ!あるある♪姫ちゃん、もう大丈夫だよ」
遼はそう言って姫美を促すと、それの前まで一緒に移動した。
「さっきのヤツの代わりにこれを入れよう」
2人が移動したのは自動販売機の前、そして遼が指差した先には、缶コーヒーに並んで瓶入りの栄養ドリンクが展示されていた。
「ええええええ!こ、これを入れるの?」
「そうこれ。さっきの赤マムシじゃないけど多分大丈夫だろう。これを入れて行こう」
遼はそう言うと小銭を出してその栄養ドリンクを買い、姫美の目の前に突きだした。