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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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ネメシスの嘆き-2


――エリアスたちが去ってから、更に数百年の長い時が経ち……。

 海底城の魔法使いは、ついに自分達の手に負えないほど強大な力を持つ作品たちを造ってしまった。
 最後の作品となった彼らは、自分達より劣る主に歯向かい、海底城を丸ごと……金トカゲの骨を、粉微塵に吹き飛ばしたのだ。
 主も作品たちも、残らず一緒に消し飛んだ。
 彼ら自身も一度は消し炭となったが、驚異的な再生能力が、彼らを蘇らせた。
 しかし、地上の誰も知らない、海底の一角で起きたこの反乱が、世界をもう一度変えてしまった。

 金トカゲの骨が消えた瞬間、世界中の人々から、その記憶が消えてしまったのだ。

 魔法使いたちの体に魔力は残った。魔法書も、金トカゲの落下から今に至るまでの歴史書も残っていた。
 しかし魔法使い達は、魔法を一度全て忘れてしまったのだ。自分達のルーツも全て。
 どうして自分達が優位に立ち、魔力無きものを支配していたのか。そもそも支配している相手と自分達に、どんな差があるのかさえ、瞬時に理解できなくなった。
 虐げられていた蛮族の方でも、それは同じだった。
 どうして自分達が服従しなければならなかったのか……。
 残っているのはただ、奴隷として扱われていた屈辱と憎しみのみ。

 数時間以内に、大陸中から魔法使いの数は数百分の一に減った。
 魔法を忘れた魔法使いなど、数と腕力で勝る蛮族の敵ではなかった。
 蛮族同士でさえ、殺しあいが多く起こった。
 蛮族の中には、魔法使いの主人や友人を愛していた者もいた。
 血と復讐心に酔った仲間たちが、奴隷を虐げた者と、自分の愛する者を同列に並べ、『自分達を支配していた者』の一くくりで処刑しようとするのを止めようとした。
 無事に守りぬけた者もいたが、裏切り者として魔法使い以上に無残に殺された者も多かった。

 この日だけで、大地はどれほどの血を吸ったか検討もつかない。
 魔法使いの支配していた国は、全て滅びさった。
 建物は焼かれ、書物は手当たりしだいに焼かれ、魔法具も壊された。
 書物や道具を壊すことで起こる損失よりも、今までの怒りを爆発させて得る満足の方が、はるかに優先されたからだ。
 ようやく人々の熱が冷め、無益な蛮行を止めようと気付いたのは、数週間も経ってから。
 数多くの貴重な魔法が消え去っていた。
 もっとも、それを仕えるだけの者も既に殆どいなくなっていた。

 ほんの僅か生き残った魔法使いたちは、ジェラッドよりさらに北へと逃れた。
 一年の殆どを氷と雪に覆われ、人狼たちに脅える過酷な地に、ようやくたどり着いたところで、更に意見の対立が起こった。
 二派に分かれた魔法使いたちは、山を一つ隔て、各々ひっそりと新たな国を建てた。
 『フロッケンベルク』・『ロクサリス』
 小さな二つの国が産声をあげた。

 魔法使いたちに、その後も苦労は絶えることがなかった。
 何かが自分の身体に宿っていて、それが『魔力』と呼ばれるものだと解ったが、魔法の使い方を一から学ばなければならない。かといって、魔法書の類など殆ど入手できない。
 厳しく苛烈な寒さで死ぬ者も出た。
 それでも残り少ない魔法使いたちは、逞しく生き延びた。
 わずかだが、命がけで彼らを守ってくれた魔力を持たぬ人々と協力し、彼らと子孫を増やした。
 魔法使いの血は薄まりながらも、二つの国は生きながらえた。

 一方で、奴隷の身から覇者となった人々も、苦労を逃れる事はできなかった。
 自分達を虐げていた全てを破壊しつくし、怒りのほとぼりが冷めてしまうと、今度は新たな火種が持ち上がったからだ。
 魔法に代わり、剣で相手を支配する時代が始まった。
 強い力を持ち、周囲の人々をまとめ出す者が何人か出はじめた。その集団ごと、互いに優勢を競いはじめた。
 血で血を洗う争い。目まぐるしい混乱の日々が何年も続いた。
 北で魔法使いたちがひっそりと国を興した頃、大陸の中心部でも、ようやくいくつかの国が出来た。
『イスパニラ』『シシリーナ』。
 今でも国際社会で主要軸となっている大国も、この時に出来たものだ。

 そして……知らずに世界の運命を変えた、最後の作品たちでさえ、自分達が誰になぜ造られたのかまで、すっかり忘れてしまった。

 彼らは仕方なく、有り余るほど持っていた魔力と再生能力で世界中を旅し、本能の赴くままに生きる道を選んだ。
 常に各々の源である楽器を持ち、人間の欲望を吸い取る彼らは、後の世で『悪魔』と呼ばれることになる。




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