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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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鉄格子の向こう側 *性描写-9


 ***

 エリアスが魔力注入をし、実用タイプになったのを知ったのは、手術が施されて一ヶ月も経ってからだった。
 ミスカも新しい『進化』を施され、昏睡からひさしぶりに目覚めたばかりだったのだ。
 エリアスの閨に行ったら、他の性玩具がいて、初めてそれを知らされた。
 ツァイロンの研究室に飛び込み、どうしてエリアスに無茶な手術をしたのか食ってかかった。

「うまくいったのだから、別にいいだろう」

 ツァイロンは煩そうにカルテを見せる。
 いくつか試した中で、雷系統の魔力注入が巧くいったことが記されていた。

「ストシェーダに情報収集へやっていた者が、妙な気を起こしてな。始末せざるをえなかった。
 それで適当な代理が必要になったところ、エリアスが自分で志願した。他に志願者もいなかったし、実用タイプを1から造る時間はない。何が悪い?」

「でも……」

「死んだ作品はな、任務を放棄し逃げようとした。再生能力に自信があったから、命のかけらを潰されても大丈夫だと思ったようだが、愚かな奴だ」

 細い目を残忍に歪め、ツァイロンは東風の衣装を翻す。

「ミスカ、お前も昔のように愚かな反抗はするなよ」

「……はい」

 嫌でたまらなかったが、ミスカは頷く。

「ともかく、これでエリアスは性玩具ではなくなった。良い子にしていれば、そっくりな顔の性玩具を造ってやる」

 ワガママな子どもをあやすようなセリフに、全身の血が沸騰しそうになった。
 両眼が熱くなり、皮膚を青銀の鱗が覆い始める。
 拳を握り締め、必死で怒りを押さえこんだ。何度も深呼吸をすると、両眼の熱や鱗が収まっていく。

「……エリアスの代わりなんか、いるはずがない」

 ツァイロンは我が意を得たりというように、ニタリと笑って頷く。

「そうか。エリアスが地上にいようと、私がその気になれば即座に殺せるのを忘れるな。アイツからの情報の定期通信は、お前が受けてやれ」

 エリアスが今いる部屋を教えられ、扉を閉めるのももどかしく駆け出す。
 うっとうしい幅広の袖が、ひらひらなびいた。
 ツァイロンも相変わらず嫌いだし、奴に用意された大陸東風の衣装も嫌いだ。
 大好きなエリアスがここにいるから、全部我慢できていた。
 なのに、海底を出て地上のストシェーダに行くなんて。おいて行くなんて!
 間違いであって欲しいと祈りながら、教えられた部屋へたどり着いた。
 久しぶりに会ったエリアスは、驚くほど強い魔力を身に帯びていた。まだやつれが残る顔から、どれほどの苦痛だったか容易にわかる。
 無茶を怒るミスカを、紺碧の瞳に冷徹な色を浮べて眺め、淡々と無表情で答える。

「もし死んでもかまいませんでした。できそこないの性玩具など、わたくし自身もうんざりでしたから」

 こともなげに告げる声に、怒りで頭の中が真っ白になった。
 はじめてエリアスを合意無しで抱いた……犯したあの時を、殆ど覚えていない。
 水触手で縛り上げ、もう知り尽くした性感を炙りだし、声がかれるまで喘がせた。
『好きだ』と繰り返し告げた。
 こんな風に犯しながら、説得力はなくて、何も通じないと知りながら。
 身体は気持ちよくても、心は何も気持ちよくなかった。
 エリアスは笑っていたように思う。ソツない偽の笑みでも、あの欲しかった笑顔でもなく、勝ち誇った怒り混じりの笑い声をあげていた。

「残酷な貴方から逃げますよ。大嫌いなミスカ!!」

 泣きそうなその声が、いつまでも耳に残っていた。




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