鉄格子の向こう側 *性描写-6
封じ石の牢から出され、またツァイロンの元でくだらない実験に付き合わされる日々が始まった。
逆らえばエリアスにとばっちりが行くと、ツァイロンは念押しを忘れなかったし、言われるまでもなく予想できた展開だ。
ミスカは一切逆らわなかった。
ようやくエリアスに会って良いと言われたのは、数日後のことだ。
今までいた特別棟から初めて出て、教えられた閨に行くと、エリアスが待っていた。
ミスカの顔を見れば、きっと眉をひそめ、迷惑そうな顔をすると思ったのに……。
「お久しぶりです。ミスカさま」
ソツない笑みと丁重な挨拶に、ズキリと心臓が痛んだ。
実用タイプのミスカへ丁重に接するのは、性玩具として当然のことだ。
それでも屍の笑顔を向けられ、他と同列にされるのは、耐え難かった。
「やめろよ……!」
思わず、苛立った声が出た。
「え…………?」
自分の感情だというのに、やっとその時になって理解できた。
偽の笑顔より怒った顔が良かったのは、エリアスの特別になりたかったからだ。
跪こうとするのを、無理やり抱き上げ、寝台に押し倒す。
「抱きたいって言ったんだ。ご奉仕してくれなんて、言ってねーよ」
仰向けのエリアスが、短く息を飲む。一瞬、紺碧の瞳に脅えたような色がよぎった。
酷い事をされると思っているのかもしれない。
あの奇妙な同居期間、エリアスはどう見ても、優しい扱いをされてはいなかったから。
「絶対動くの禁止。あと、“さま”もダメ。変な呼び方されると、調子が狂う」
苺みたいに赤い、柔らかな唇が美味そうで、ペロリと舐めてみた。
苺の味はしなかったけれど、もっと美味しくて、ほどけた唇の中へ舌を差し込む。
熱い口内はもっと美味しくて、夢中で貪った。
エリアスを性玩具に使う主を何人も見ていたけれど、キスをした奴は一人もいなかった。
こんなに美味いのに、なんて馬鹿な奴らだろう。
「っん……ん……」
もっと食べていたかったけれど、エリアスが何か訴えたそうだったから、しぶしぶ口を離した。
「っ……ご存知ではありませんか?わたくしがどうして……失敗作か……」
すっかりあがった息の合間から、エリアスが尋ねる。
「知ってる。性感が鈍いんだろ?」
「はい……ですから、抱いて反応を楽しみたいのでしたら、他をお勧めいたします」
ソツない笑顔で吐かれた冷静なセリフだったが、声が僅かに震えていた。
とても注意深く聞かなければ、きっと気付かなかっただろう。
「他は嫌だ。俺はエリアスが好き」
ビクリと、紺碧の瞳にもう一度動揺と脅えの色が浮かんだ。
酷い目に会わせようだなんて思ってないのに……。
「エリアスが好きだ」
安心して欲しくて、もう一度言ってみたけれど、やっぱり紺碧の瞳に浮かぶのは怯えだけ。
エリアスにも好物があるんだから、ミスカにだって好物の一つもあると、わからないのだろうか?
もう一度、形のいい唇を舐めてみた。やっぱり美味しい。
「ミスカ……?」
身体の下で、困惑の表情を浮べるエリアスは、ひどく可愛かった。
エリアスが前と同じように怒って迷惑そうな顔をするなら、適当にからかって、それだけにしようと、ついさっきまで思っていたのに。
すごく美味そうで、喰いたくてたまらない。
はだけた衣服から覗く白い肌へ舌を這わせ、甘噛みを繰り返す。
薄赤く染まった頬も、細い首筋も、柔らかい胸も、しなやかな手足も、どこもかしこも甘くて美味い。
「っ!」
全部脱がせ、散々愛撫しているうち、エリアスの身体が小さく跳ねた。
「ん?ちゃんと反応するじゃん」
これだけ全身を愛撫されたあげく、やっと起きたごく小さな反応だ。
普通よりかなり鈍いのは確かだが、まったく感じないわけではないらしい。
「ち、ちがいます……」
真っ赤に蒸気した顔で、エリアスは首をふる。艶やかな短い黒髪が、シーツをぱさぱさ打った。
それでも、感じやすそうな所を刺激するたび、ピクンと身体を震わせはじめる。
リザードマン研究で得た能力を植えつけられ、ミスカはとても鼻が利く。じわりと滲み出している汗は、あきらかな発情の匂いだった。
最初に動くなと言ったのを、エリアスは健気に守っていた。
身体を硬くしたまま目を瞑り、必死に耐えようとしているが、すっかり感度を増してきた身体をなぞっていくと、ときおり噛み締めた唇がほどける。
「んっ!」
鼻に抜ける甘い声が、耳に心地良い。
「ははっ、すげー可愛い」
じわりと目端に浮かんだ涙を舐め取った。
「ミスカ……お願いです……ふつうにさせて……」
呼吸を荒く熱し、苦しげに眉を寄せ、エリアスが訴える。
「普通?これって普通じゃねーの?」
硬く尖った胸の先端を吸い上げると、ひゅっと息を飲んで、また全身を強張らせた。
「っ!は……なんでも……しますから……っ」
エリアスの言いたい事はわかったけれど、聞いてやる気はなかった。
「じゃぁ、このまま大人しくしてろよ」