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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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36 咎人の償い-7


 ***

 突然姿を消したエリアスを、アレシュをはじめカティヤもゼノ城の人間全てが探し回った。
 城中を探しつくし、最後にもう一度、アレシュは祈るような思いでエリアスの自室を開けた時。

『アレシュさま!!上空からドラゴンです!』

 とつぜん、見張り塔から慌てふためいた伝令の声が届く。

『この近くにドラゴンはいないはずだぞ!?』

 いつかしたようなやり取りをした時、窓から外を覗いたカティヤが叫んだ。

「アレシュさま!!あれは飛竜ではありません!!!」

「なっ!?」

 あわてて隣りから身を乗り出すと、青銀の身体をした巨大なドラゴンが、力強く羽ばたいてこちらへ向かってくる。
 背中には黒髪の女性が一人、乗っていた。銀色の文官用マントが風になびく。

「エリアス……?」

 探し回っている側近に瓜二つの女性は、アレシュたちに気付くと片手だけを離し、優雅に礼をした。

「アレシュさま!急で申し訳ございません、本日限りでお暇を頂きます!」

 風に負けない大きな声で、聞きなれたエリアスの声が届く。

「っ!?やっぱりエリアス!?なんで女に……!?ちょ……っ!!」

 慌てふためくアレシュから、今度は隣りで呆然としているカティヤへと声がかけられる。

「カティヤさま!わたくしの旅行カバンを取ってくださいませ!」

「え!?ええと……これですか?」

 アレシュが止めるまもなく、カティヤが足元の旅行カバンを窓枠に乗せる。
 ソツない秘密主義のエリアスのことだ。いつでも即座に出て行けるよう、準備万端にしていたに違いない。
 ドラゴンが城にぶつかるギリギリまで近寄り、手を伸ばしたエリアスがカバンを掴み取る。
 アレシュのそばにきた一瞬、ふわりとエリアスが微笑んだ。

「お世話になりました……わたくしも、大切なものを掴んでしまったのです」

 約束どおり言ってくれた別れの言葉は、たったそれだけだった。
 アレシュは諦めて、引きとめようとした腕を引っ込める。
 代わりに、緋色の髪につけていた黒と金の魔石を外して投げた。

「忘れ物!!退職金だ!!」

 アレシュ以外が身につけても、カティヤのペンダントとは共鳴しないが、ただの魔石として売れば金貨一万枚にはなる。
 それにもう、アレシュには不要なのだから。

「っ!」

 エリアスは魔石をとろうとしたが、片手に旅行カバンを持っていては無理だ。そもそも運動神経はそんなに宜しくない。
 しかしアレシュの思ったとおり、ドラゴンが片方の前足で器用に魔石をキャッチする。
 アレシュとまったく違うようで、どこか似ている金色の瞳が、愉快そうにこちらを見た。
 そしてドラゴンは、青銀の翼をはためかせ、城から離れていく。
 背中に乗ったエリアスの姿もみるみる遠ざかっていき、やがて見えなくなった。

「……来たときもいきなりだったが、去るときもやっぱり突然だったな」

 ドラゴンの消え去った空を眺め、アレシュは呆然と呟いた。

「エリアスさま……もう戻ってこられないのでしょうか」

「ああ、多分……」

 気遣わしげなカティヤを抱き寄せる。
 愛しいプラチナブロンドに顔を埋め、泣きそうなみっともない顔を隠した。

「……絶対に引き止めるつもりだったのにな」

 秘密主義で、いつも飄々としていたエリアスの……あんなに幸せそうな笑顔をみたら、引き止められるはずないじゃないか。




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