恋する気持ち-19
「直樹…。俺、二人のことが気になって…」
(いや、だからなんでお前が涙目?)
心の中でツッコミ入れつつ、俺は、今日この日に燈子と想いを通わせられるきっかけをくれた親友へ、感謝のVサインを送る。
「――おかげさまで!超らぶらぶなんだけど、俺ら?」
「マジかっ!?…やったぁ!!」
ボトリと、三人分のカバンは床に落ちて。
万歳しながら飛び上がる泰臣。
「ありがとな、泰臣。それと、先生。ありがとうございました!」
「おう。元気でな!」
「んじゃ、…帰りますか!」
床に散らばったカバンを拾い上げ、三年間通った馴染みの校舎に別れを告げる。
「――あ、ちょっと待っててもらってもいい?…トイレ行ってくる」
中央校舎一階にある昇降口まで降りてきたところで、思い出したように燈子が慌ててトイレに向かった。
…たぶん、下着もその中身もぐちゃぐちゃにしちゃったから、帰る前にせめてもの処置をしておきたいんだろうな。
(ごめんな、燈子)
「――なぁ、直樹。燈子女史…便所遅くね?」
暫くの後、ポツリと泰臣がつぶやく。
「う●こかなぁ?」
「…お前ねぇ。いい加減成長しろ」
パタパタパタ…
「ご、ごめんね!遅くなっちゃって…」
小走りに戻ってきた燈子に向かって、泰臣がニヤリ。
「燈子女史、便所長かったけど…う●こですかぁ?」
(――またやりやがった!)
「ちょっ!お、ま、え、は〜っ!!」
思わず、隣の親友の首を絞める。
「――う●こじゃなかったけど、それが何か?」
「お前もノリノリで返すなっ!」
…おいおい。
花の女子高生(今日で最後だけど)がう●ことか言うかっ!
(…もう、何なのこいつら)
「あの時は、まだ始まって間もない、月に一度の『女の子の日』だったから手間取ってたんだけど…」
「ん?あの…燈子?」
「――今日は、大好きな人に心も身体も大人にしてもらって、ぐちゃぐちゃになっちゃったから時間が掛かったのっ!」
「えっ……えぇぇーっ!?」
案の定、人気の少ない昇降口に泰臣の絶叫が響き渡ったのだった。
こうして、俺たちの卒業式は終わった。
でも、これはあくまでもひとつの通過点。
今までもこれからも、俺たちの道は続いていて、繋がっていて。
だから、歩いていこう。
ずっとずっと、一緒に。
どんな時も、二人で。
その胸に、いつも『恋する気持ち』を抱えながら。
(終)