恋する気持ち-15
(――あ、チャイム…鳴ってる)
甘く気だるいまどろみの中で、考えることを拒否する俺の耳に鳴り続けてるのは始業のチャイム。
…でも、まだいいや。
だって、阿川がここにいる。
俺の、腕の中にいる。
離したくない。
離れたくない。
次って、何の教科だったっけ?
まぁ、少しくらいサボったって…。
「――よくないっ!」
卒業式だったじゃねえか、今日はっ!!
途端に、頭の中の霧が晴れた。
(…そうだった)
確か、俺たち担任から配布物取りに教員室に来いって言われて、その途中で…。
慌てて時計を見れば、二人で教室を出た時刻から軽く一時間が経過している。
「――阿川っ!起きろ…って……」
ドキッとした。
そこに、大きな目で俺を見つめる阿川がいたから。
それは、アホみたいに慌てふためく俺なんかとは違って、静かな…とても静かな眼差しだった。
「…あ、起きてたのか。てっきり寝てるかと思ったから」
「ううん」
フフっと、小さく微笑みながら阿川が立ち上がる。
「直樹の、心臓の音聴いてた」
とりあえず、この状況は良くない。
校内一斉放送という名の捜索願いが出される前に、まずは担任に言い訳をしに教員室行きだろうか。
――でも。
阿川が居なくなってしまった俺の、腕の中が寂しい。
そこにあったはずのあたたかな温もりが、急速に冷めていくのが悲しい。
ついさっきまで、俺たちは確かにひとつだったはずなのに。
「阿川…」
乱れた制服をゆっくり整えていく阿川に呼び掛ける。
でも、そこから先は…何て言ったらいいのだろう。
こんな時、ちゃんとした大人の男だったら、ずっと大好きだった人にどんな言葉を伝えるんだろう。
(俺って…ガキだわ…)
「――直樹」
「う…えっ、はいっ!」
自己嫌悪に陥りながら、とりあえず阿川の後を追ってすごすご制服を整えていた俺。
「な、何でしょう?」
突然に響いた阿川の凛とした声に、思わず敬語で返事をしてしまう。
…どんだけビビりだ、俺。
「ありがとう」
(――え……?)
真っ直ぐに俺を見ている阿川。
その、優しくて強い眼差しは、なぜだか俺を悲しくさせた。
「ありがとうって…?」
「――――――……」
「何のこと、阿川!?」
「…私の、最後のお願い聞いてくれて…抱きしめてくれて、ありがとう」
「…さ、いご?」
「――そう、最初で最後の、私の最大のわがままだった。…たくさんの幸せで私を満たしてくれて、ありがとう…直樹」
「―――――……」
何だよ、それ?
何で終わっちゃうわけ?
俺たち、今から始まるんじゃねぇのかよ?
「直樹の『初めて』奪っちゃったのならホントごめんだけど、大学行ったらかわいい彼女作って…」
「―――阿川っ!!」
張り上げた自分の声は、予想以上にでかかった。
無意識に伸ばした右手は阿川の細い手首を掴んでいて、たじろぐ阿川が、怯えたような目をして俺を見上げている。