自覚-1
「ええ〜っ?!ファンに帰らねえの?!」
穏やかな朝、カイザス国境近くにある小屋でケイが叫んだ。
「や、だって次に行きたいとこ南の大陸にあるし」
ゼインは壁に貼ってある地図を指差す。
「今、ここだろ?俺が8年前に居た『畑』がここで……」
ゼインは指をつつつっと下へと滑らせた。
そこは南の大陸の最南端クラスタ……『黒海』と呼ばれる海に一番近く、その『黒海』の遥か向こう側には魔物の巣窟、氷に閉ざされた北の大陸がある。
「……で、俺が指示を受けてた場所はここ」
ゼインの言葉を引き継いだスランは、南の大陸の中心国ビアズリーより東の国トムスをトントン叩いた。
「私が居た所も多分、そこです」
更にポロがトムスを指差す。
「……つうワケだ」
つまり、南の大陸にしか用が無い。
「で、でも……ポロの枷はどうすんだよ?!」
ポロの枷を外してもらう為に苦労して魔草を収穫したのに、タダ働きするのか?と、ケイは諭した。
「それもな、着けた奴んトコ行くワケだし……上手くいきゃそこで外せるだろ?」
「まあ、スッゲー苦労したからこっちが終わったらそれ相応の代価は貰いに行くケド?」
ゼインとスランは顔を見合わせて、なあ?と首を傾げる。
「ううぅ〜〜…」
ケイはテーブルに両手をつき、下を向いて唸った。
「ケイは帰れよ?ぶっちゃけ関係ねぇし」
ゼインはあの男と決着を着けたい……ポロは自分が何なのか知りたい……スランは相棒の敵を打ちたい。
そこまで考えたケイは、ゆっくりと視線をカリーに移す。
「私はゼインと一緒に居るって決めたんだもん」
視線を受けたカリーはあっさり答える。
個人的に何も関係ないのはカリーもケイと同じだが、大好きなゼインに酷い事をした奴を一発は殴りたい。
「ううぅ〜〜……」
確かにケイには行く理由が無いが、実は帰りたくない理由ならある。
急に飛び出して来たので親にも理由を言ってないし、何より魔導師エンにも伝えていない。
親は良いのだ……『男ならやるべき事をやれ!!』と理由も聞かずに送り出してくれた。
問題はエン……魔力をちゃんとコントロール出来るまでは、彼の管理下に置かれているので、無断で飛び出した事を怒られるのは確実だ。
再び唸りだしたケイに、ゼインは苦笑いする。