自覚-3
「おたくのワンコが睨んでる」
「あはは、宥めてくるぅ〜。じゃ、気を付けてねぇ」
「うん」
走り去るカリーに手を振ったケイは、馬の勢いによろめきつつその首を撫でているポロに視線を移す。
「ん?」
ケイは首を傾げてポロを見下ろし、彼女はアイスブルーの目を真っ直ぐにケイに向けた。
「ありがとうございました」
ケイにはちゃんとお礼を言ってなかった、とポロは深々と頭を下げる。
それを見たケイは、馬から降りてポロの前にしゃがんだ。
「まだ、お礼は要らないよ。ちゃんと家に帰って来てからで良い」
ニコッと笑ったケイだったが、その笑顔は少し曇っていた。
「ホントは着いて行ってポロを守ってやりたい……でも、どう考えても俺は邪魔にしかならないから……さ」
肝心な時に花吹雪が舞うとか、そんな魔法が発動しそうだ。
こんな事ならもっと真面目に魔法の勉強をしとくべきだった、とケイは無茶苦茶後悔する。
「私……お母さんとお父さんと、叔父さんと……まだ、お話して無いんです」
「うん」
「だから、必ず帰りますから……」
「うん。待ってる」
ケイはポロを抱こうとして腕を上げたが、ふとそれを止めて立ち上がった。
人との触れ合いが苦手なポロに遠慮したのだ。
しかし、そのケイにポロの方から抱きついた。
驚いているケイの胸に顔を埋め、ぎゅうっと抱きつくポロ。
ケイは躊躇いつつ彼女の背中に腕を回し、そっと抱き返した。
「でぇ?のこのこ帰ってきたワケだぁ〜?」
数日後、ファンの城の屋上で腕を組んだ魔導師エンの前で正座をしているケイの姿があった。
ファンの港に着いた途端、赤いドラゴン(分かりきった事だが、エンの精霊アビィだ)に船ごとかっ拐われて今ここにいるのだ。
「いや……まあ……平たく言えばそういう事に……」
ケイは小さくなってオドオド答える。
「ボクに黙ってカイザスまで行って?王子のお披露目にも顔出さずに?城の皆に散々心配させといて?なのに、そこまでしておきながら関係無いからって戻って来て?素直に待ってるワケだ?」
おや?黙って出ていった事を怒っているワケじゃないのか?とケイは顔を上げた。
「なっさけなぁ〜い!海の男の根性ってそんなもんなワケ〜?」
エンの表情は怒っているというより、呆れている顔だった。