独想-1
暗く暖かい場所……そこが、私の住処だった。
ゆっくりゆっくり移動して、獲物を捕まえて食べる……それだけを繰り返す日々。
だが、ある時……食べ物である筈の獲物が私に叫んだ。
『化け物がっ!!』
化け物とは何だろうか?
それが知りたくて獲物を引き寄せたが、獲物は私の世界では生きていけないらしく、直ぐに動かなくなった。
『怒り』『無念』……その獲物からは、そんな感情が読み取れたが、その感情すらも良く分からなかった。
また、獲物を捕まえた。
『いやぁっ!助けて!誰かぁっ!』
今度の獲物は私にではなく、近くに居る他の獲物に向かって叫ぶ。
しかし、他の獲物は動かず……私に捕まった獲物が私に食べられる様を見ていた……のだろう。
『恐怖』『悲嘆』『絶望』……それが感じられた。
私には何かを見る能力が無い。
ただ感じるのだ……私の見れない世界で蠢く獲物達を。
知りたい……そう思った。
食べ物である獲物が何を考えているのか、興味が沸いた。
ある日の事、捕らえた獲物がいつもと違った。
ただただ喚き、暴れるだけの頭の悪そうな食べ物。
味も最悪だった……硬いし筋っぽいし、骨は芯までスカスカで最後には吐き出してしまったぐらいに。
しかし、その血液は非常に美味だった。
身体の底から力がみなぎるような、そんな血液だった。
その時、不意に思った。
そうだ、獲物の体内に潜り込めば良いのかもしれない……と。
それから獲物を捕まえる度に、その中に入る事を試してみた。
何度も……何十回も……何百回も……何千回も……。
試す度、獲物から様々な思考を読み取る事が出来た。
私の知らない決まり事や生きる為のルール……その中でも、子孫の残し方は興味深かった。
何がというと、2つの体から基本的に1つしか増えない……なんと、非効率極まりないのだ。
もっと増やすには更に何年もかかるのだ。
そこには経済的困難やら、愛情の問題やら何だか分からないものが絡んでくるらしいが、やっぱり分からなかった。
知りたい……どうしても、見えない世界の事が知りたくなった。
試行錯誤を繰り返した結果、やっと1人の獲物に潜り込む事が出来た。
その獲物は『男』で『魔法使い』と呼ばれるタイプ。
私は獲物よりも身体が大きいので全ては入らない。
なので、腕を一本切り離して獲物に潜り込ませたのだ。
私の腕……というか触手は沢山あるので、2、3本無くなっても困らない。
その分身を通して見る世界は私の好奇心を大いに満たしてくれた。
更に、この男の知識や能力はとても役に立った。
それを使って効率良く獲物の子孫を残す研究をしてみた。