独想-2
1人の個体から沢山の個体を産み出せば良い……その為には、産み出す個体、更に産み出される個体も肉体的に強くなければならない。
獲物の身体は単純かつ複雑だった。
それを強くしていく課程はとても面白かった。
そして、私の研究は獲物達にも役に立つ事が分かった。
ひたすら増えていく獲物を始めのうちは食べていたのだが、売る事が出来るのに気づいたのだ。
どうやら獲物は自分より立場の弱い獲物を買って、労働力にするらしい。
それは、一般的に『奴隷』と呼ばれていた。
そして、私の売る奴隷は優秀だと評判になり、私の研究施設は『畑』と呼ばれるようになった。
そうして莫大な資金を手に入れた私は、最も興味ある事の研究を始めた。
私自身が獲物になる事。
これだけ獲物を作っても、獲物が何を考えて何を感じるのかが分からなかったからだ。
なら、分身ではなく私自身が獲物に入り込むべきなのだと気づいた。
その頃には、私が獲物にとっては『魔物』という存在である事も分かっていた。
だから、魔物の研究もしたし自分自身の研究もした。
私自身の肉体は捨てて『核』を獲物の中に入れる……その方法が一番簡単で効率的だった。
その為には、私が入り込んでも大丈夫な肉体が必要だ。
私の魔力に耐えうる身体……それが欲しかった。
ある日、街に出てみた。
獲物達が集まる街……騒がしく賑やかで活気のある街。
その一角にある奴隷市場で不思議な獲物を見つけた。
ドクン
入れ物である獲物の心臓が大きく跳ねた。
こんな事は始めてだった。
その分身を通じて私の本体の核も激しく明滅する。
見つけた獲物は灰色の髪の毛を持っていた。
それは両手足に鎖付きの枷を付けられて、店先で寝転んでいた。
思わずしゃがんでその獲物に手を伸ばす。
手に触れた髪の毛はふわふわで、落ち着き無く跳ねていた心臓が少し静かになった。
「ダンナ、その奴隷に興味がおありで?」
奴隷商人がニヤニヤと私に声をかける。
「その奴隷は『死を呼ぶ奴隷』ってな、曰く付きの奴隷でさあ」
「『死を呼ぶ奴隷』?」
「へえ、何でもそいつを買うと飼い主が死ぬんでさ」
そんな事があるだろうか?
しかし……成る程……そうかもしれない……私は『生きる』事に飽きたのだ。
だから、獲物に興味を持ち、獲物に成りたいのだろう。
私はその奴隷を買い取り、住処へと持ち帰った。
私の分身の住処は『畑』の隣に作った。
本体はその遥か下……地中にある。
本体に一番近い地下牢に買ってきた奴隷を寝かせ、じっくりと眺める。
小柄な体格に似合わない筋肉質な身体。
穏やかな寝顔を見ていると何故だか落ち着く。
ずるりと本体の触手を伸ばして、その頬に触れてみる。