忘れ物-4
とぼとぼと教室から出て、前田と共に生徒会室へと向かう。
「にぃにぃ〜♪」
背後から聞き覚えのある声がしたので振り返ると、予想通り杏ちゃんだった。何やら弁当箱が入っていそうな布袋を持っている。
「にぃにぃはやめろ杏仁豆腐」
「あっ、ひどーい。お姉ちゃんに『先輩に女された』って言っちゃいますよ?」
「なんだよお前らそういう関係だったのか?」
何も知らない前田が変な誤解をし、興味深そうに話に割って入ってきた。
「ぶー。外野はひっこめー」
「へーへー。じゃあ俺さっきに行ってるわ」
Oh..誤解したまま……。
「兄さん。今暇ですか?」
今度は兄さんときたか。
「暇じゃない。杏ちゃんと話してる時間はない」
さっさと生徒会室に行って先輩に会わねば。
俺は杏ちゃんに背を向けて歩きだした。
「あ〜あ、お弁当ひとつ余ってるんだけどな……」
ぴくり。その言葉に反応し、振り返る。
「ナンデスト?」
「お弁当作りすぎちゃって2つ持ってきちゃったんだよねー」
おいおい。いくら作りすぎたからって普通2つも持ってこないだろ。
だがこれは好機だ。昼食抜きを脱することができるかもしれん!
「余ってるなら俺が貰おう」
俺は仕方ないなぁって感じで手を出した。
「なんか偉そう……まいっか。はい、どうぞ」
「おう」
よっしゃ弁当ゲット!
「それにしても大きい弁当箱だな。どんだけ食うつもりだったんだ?」
「ちなみにそれ、お姉ちゃんの分も入ってますから」
最後にそんなことを言ってささっと逃げるように去る杏ちゃん。
「…………は?」
えーとつまり、杏ちゃんにまんまと騙されたってことか?
杏ちゃんは俺を誘惑したいのか、先輩とくっつけたいのかどっちなんだ……。
***
生徒会室――の前の廊下。
俺は扉を開くのを躊躇っていた。というかメチャクチャ緊張するんですけど!い、いつもみたいに普通に入ればいいとわかっていても、先輩の分も入った弁当箱を持っているというだけでなんでこんなに緊張してんだ俺は!
そ、そうさ別に一緒に食べることになるわけじゃない。弁当箱だって2つあるだろうし――確認していないけど――、別々に食べるはずだ。
「あっれぇ?大神先輩じゃね?何してんすかぁ?」
「お、おう近衛。別に何をしてるってわけでもないぞ」