竹中君とのデートA-4
「高校生だったら、他にやることがあるだろう」
「他にって?」
竹中の声は震えていた。
「近ごろじゃ、エッチも必修科目に入っているのか?」
竹中は沈黙した。五分刈り中年男の迫力に気圧されてしまったのか。
「エッチなんてしてません」
紗綾は勇気を振り絞って反論する。
「じゃあ、何してたの?正直に言ってみ」
精悍な中年男は挑発してきた。
(どうしよう…)
「あのぅ……」
「何だ!」
「うちの父は警察にも顔が利くんです…」
「だから?」
「私たちに何かしたら、鳴海の警官全員が動きます」
気が動転していて、自分が何を話しているのかさえ、わからない。
精悍な中年男は声を上げて笑った。
「こいつは愉快だ。君に言われなくても、もう、警官は動いているよ」
「えっ?」
中年男は革ジャンの胸ポケットから手帳を取り出して広げた。
「鳴海署きっての悪徳刑事、関谷達弘とは俺のことだ。カッコいいだろう?」
「悪徳…刑事…」
「高校生には乱暴しないから安心しろ」
「刑事さんでしたか。安心しました」
重かった竹中の口が軽くなった。ホッと胸をなで下ろした様子だ。
(私を守ってくれる男気を見せてほしかったのに…)
「ところで君たち、何してたの? エッチなことしてたんでしょう?」
「はい、してました」
竹中はハキハキと答えた。紗綾は恥ずかしくなった。
「そうか…。人目を気にせず、イチャイチャできるとこ、紹介してあげようか? 俺の知り合いで、オメコの汁で飯を食っとる奴がおるんよ」
紗綾は言葉の意味がわからず、ポカーンとなった。
「あっ、ラブホのことよ。ラブホテルべんきょう部屋。楽しいとこやで」
「ぜっぜひ、紹介してください」
「竹中君…」
紗綾は、刑事に対して遜る(へりくだる)竹中の態度に腹が立ってきた。
「今から、べんきょう部屋行くか? 俺も仲間に入れてもらうよ」
(この人、狂ってる)
セーラー服の背中に寒気が張り付いた。
緑地公園の入口付近から芝草を踏む足音が―。駆け足で誰か来る。
「さーちゃん!そこにいるのは、さーちゃんか!」