告白2-1
土橋くんは、ガバッとベンチから立ち上がって目を見開き、
「歩仁内は……?」
と、訊ねてきた。
「……歩仁内くんを好きって言ったのは、嘘。郁美が、私が土橋くんと友達でいることを嫌がってたから、誰か他の人を好きなことにすれば土橋くんは距離を置くだろうって思って嘘ついてた」
「郁美が……?」
彼は眉をひそめて私を見やる。
「……それほど郁美は土橋くんのこと好きで、独占したかったんだと思う。“修と絶交して”って言われたときは、悲しくて郁美のこと恨んだりしてたけど……郁美はきっと必死だったんだね」
私がそう言うと、彼は唇を噛み締めて下を向いた。
「そして土橋くんと話をしなくなって、完全に諦めたつもりだった。でも補習最後の日、土橋くんと話ができたときは……涙出るほど嬉しくて、このまま時間が止まって欲しいと心から思った。……でも結局土橋くんのことを諦められていなかった自分に気付いて、自分のしつこさに嫌気がさした。
それならバッサリ振られて自分が立ち直れないくらい傷付いたら、今度こそ諦められるような気がして、告白しようと決めたの」
そう言い終えると、私達はしばらく黙り込んでいた。
土橋くんは明らかに戸惑ったような、困ったような顔で咳払いなんかしている。
……言っちゃった。
振られるつもりで言ったくせに、彼の戸惑った表情を見ると言わなきゃよかったかもっていう後悔の気持ちが込み上げてくる。
……どうしようどうしようどうしよう。
私は密かに焦りだして、ここから逃げ出したい衝動に駆られた。
「……石澤」
土橋くんが私に向き直る。
街灯しかない薄暗がりの中で彼の顔は、よく見るとほんのり顔を赤くしているように見えた。
そして、彼の困惑した顔を見た私は、急に彼の答えを聞くことが怖くなった。
……やっぱり迷惑っぽかったかも。
ほんの少し期待していただけに、彼の困ったような顔は覚悟していた以上にショックだった。
彼に拒絶されるのはやっぱり怖い。
いざ彼が何か言おうと口を開こうとしたとき、悪あがきとはわかっていても、どうにかそれを回避したかった。
そんな私の頭の中に、ふとさっき郁美が言った言葉が頭に浮かんできた。
―――ネックレス返すついでに修のこと一発ぶん殴ってきてよ。
「俺さ……」
「あ、あのね。もう一つ郁美から頼まれたこと思い出したの!」
答えを聞くのに怯んだ私は、彼の言葉をわざと間の抜けた声で遮った。
「は?」
彼は眉をひそめて私を見る。
告白しておきながら、自分で話題を逸らそうとしているのだから、彼が怪訝な顔をするのも至極当然だ。
でも、焦りと恐怖で半分パニックになっていた私は、構うもんかと変な方向に突っ走った。
私は目をギュッと瞑り、心の中で“ごめんなさい”と呟くと、いきなり彼の頬を思いっきりひっぱたいた。