告白2-6
土橋くんのしていることはズルいとわかっていながらも、このまま腕の中にいたいと思う自分がいて。
抱き締めていた腕の力は緩めてくれたのだから、引き離そうと思えばそうできるのに、なぜか身体が動けない。
金縛りにあったように、固まったままの自分の身体の中で、心臓だけが破裂しそうなほどバクバク動いていた。
彼の腕の中に包まれていると、彼のブルゾンが、海でパーカーを貸してくれたあの時と同じ匂いがすることに気付く。
その洗剤混じりの優しい香りがやけに懐かしくて、私は遠慮がちに彼の胸に顔をうずめた。
心なしか、ブルゾン越しに響く彼の心臓の音も、バクバクと激しく動いているような気がした。
「……石澤」
土橋くんは優しく私の髪を撫でながら名前を呼んだ。
彼の息遣いを耳元で感じるたびに背中がゾクゾクと痺れてくる。
さっきから頭を離れてくれないキスの感覚と、私の身体を包む腕の力強さがあいまって、クラクラと目眩を起こしそうになる。
なんとか返事をしようとするけど、緊張のあまり、声が出ない。
かろうじて、
「……うん」
とだけ、かすれた声で返事した。
彼はスウッと息を吸い込んでから、
「諦めきれなかったのは俺もおんなじなんだ」
と、静かに言った。
その言葉の意味がわからなかったので、私はそっと顔を見上げたら、彼は少し困ったように笑っているだけだった。
「補習最後の日な、郁美と昼飯に合わせて会う約束してたんだ」
土橋くんはそう言って、ようやく抱き締めていた腕をスッと下ろした。
急に温もりを奪われ、寒さに晒された私は小さく身震い。
補習最後の日、土橋くんが教室に入ってきた時は、確かに一時をまわっていたっけ。
お腹が思いっきり鳴ったのでよく覚えている。
「郁美とは12時半に待ち合わせしてたんだけど、下駄箱に服の入った袋見つけて、お前からの手紙見つけて……気付いたらお前のこと探してたんだ」
「…………」
「……でも、教室に戻ってもお前はいなくてカバンだけが残ってて……だから、俺はお前のこと待ってたんだ。郁美には遅れるって電話してさ。“ありがとう”ってお礼でも、“返すのが遅い”って文句でも、とにかくなんでもいいから、お前に何か言いたかったんだ」
あの時、土橋くんが教室に入ってきたのは偶然じゃなくて、私を待っていてくれてたんだ。
あの日のほんのわずかな間だけど、前みたいに話ができたことを思い出すと、涙ぐみそうになった。
「お前と久しぶりに話ができて、すげぇ嬉しかった。このまま前みたいに戻れたらって欲が出て来たけど、お前には歩仁内がいるから、それはやっぱり無理だと思い直した。でも、あのまま黙って帰るのはなんか癪だったから、せめてちょっとしたイヤミ言ってやろうと思って、あんとき歩仁内の名前出したんだ」
彼はきまりが悪そうに小さく舌を出しながら、チラリと私を見やった。