指輪の魔法使い 面影堂の闇商売-1
#魔法使いが出かけた日
ここ骨董品屋の「面影堂」では晴人が偵察に出かけている間、輪島とコヨミ二人だけになる。
店番しているコヨミは、客が来ないので水晶ばかり見ている。
店主の輪島は、ウィザードリングを作り続けているが、本物になるのはわずかだ。
そして毎日、同じ時間になるとコヨミは台所に行って、お茶を作りだす。
コヨミは熱々のお茶を1つお盆に乗せて、宝石を削っている輪島に近づいた。
「輪島さん、お茶いれました」
輪島は研磨機の回転を止めると、壁の時計に目をやり、
「もうそんな時間だったのか」とにっこり笑った。
近くのテーブルにお茶を置きながら「今度の石はどうですか?」と尋ねると、
輪島は削り粉がついた手をタオルで拭いて、テーブルのお茶に手を伸ばしながら、
「魔宝石の声は聞こえてるんだが、実際は晴人くんが試してみないと分からないからねー」
と言い、音をたててお茶をすすった。
「そうですね、良い効果がでて少し楽になれればいいのですが」と眉根を寄せて悩んだ顔をする。
「まぁスメルのように臭いだけのような物もあるからね」と、
輪島は鼻を摘んで、手をヒラヒラさせて、おどけて見せた。
それを見てコヨミは少し白い歯を見せると、
「ふふ、あれは1週間、匂いが取れませんでしたね」と微笑む。
楽しげな雰囲気の面影堂に、歳の割には軽々しく足を運ぶ者が今日も来た。
店の前に立つと、レンガで作られた古びた建物で、片側しか開かない木の扉には、「面影堂」と書かれている。
丸い取手を回して扉を開けると、中は綺麗に磨かれた骨董品が並んでいた。
「どーも」扉を開けて挨拶する。
「来たね〜、常さん」輪島がこちらを見て手を上げた。
店内に入ると、そこに立っているコヨミを舐めるように上から下まで見て、
「コヨミちゃん、今日も可愛いね」と楽しそうに言った。
それとは裏腹に「こんにちは」とコヨミはそっけない挨拶で返した、
好かれていない事がよく分かる。
でもいつも通りの会話なので、気にしない。
輪島がコヨミちゃんの方を振り返り
「あ、コヨミちゃん 常さんが来たから、もういいよ」
と熱いお茶をいっきに飲み干して、お盆に乗せた。
「はい、これをかたしてから部屋に戻ります。」輪島には笑顔を見せてる。
「うん、ありがとう」
「なんだよコヨミちゃん、儂ともお話しようよ」と近づくが、
コヨミは何も答えずにお盆を持って、台所に消えてしまった。
「おいおい、つれないねー」空を切る手がむなしい。
それを見て呆れ顔の輪島が
「そんな事してるからカミさんに愛想つかされるんだよ」とたしなめた。
「はぁ〜、コヨミちゃんのような、可愛い娘がいてくれたらなぁ〜」と聞こえる様につぶやくが、反応はない。
「娘ってゆうより、孫じゃないのか?」と聞きかえされる。
「それを言われると、かなり老けた様におもっちゃうだろ〜」
ゲラゲラと無駄な会話が続いた。
今日も宝石職人でもある輪島に、宝石作りを教わりに着た。
コヨミは洗い物を終えたようで、二人の所に来ると、
「すみません、後はよろしくお願いします。」と頭を下げた。
「うん分かった。晴人くんが帰ったら呼ぶからね」と振り返りながら輪島が片手をあげる。
「はい、ありがとうございます」と言ってコヨミは2階に上がって行った。
その可愛い後ろ姿に、名残惜しそうに手を振ったが、気づかれてない。
コヨミの姿が見えなくなると同時に、腕時計を確認する。
秒針が遅く感じる。
5分ぐらいしてから輪島を見て「もういいかな?」と聞いた。
輪島も時計に目をやると、「うん、じゃ始めようか」とテーブルの下に手を伸ばし、
裏に張り付いている小型のプラモンスターを机に出した。
輪島はてんとう虫のようなプラモンスターに、先ほどの宝石の削りカスをまぶす。
少しこわい顔で「コヨミを吸ってこい」と命令する。
てんとう虫は、羽もないのに飛んで2階に消えていった。
それを目で追ってから、ポケットに忍ばせていた封筒を取り出し
「はい、これ」と輪島に渡した。
「うん、ありがとう」と封筒を両手で持って感謝している。
「もういいかな?」と聞くと
「大丈夫だよ」とニコっと笑った。
それを聞いて膝に手を置くと、
「それじゃ〜楽しんでくるわ」と立ち上がり、2階を目指して歩き出した。
目の前のドアには”コヨミ”と刻んだ木のプレートがぶら下がっている。
ノックもしないでドアを開けると、中から女の子の香りがした。
部屋は、白を基調にタンスとベッドが置いてある4条の部屋だった。
ベッドには先ほど会ったコヨミが寝ている。
人が入ってきたことには気づかないらしい。
寝ているコヨミの近くの棚で、プラモンスターのてんとう虫が赤く光っていた。
「おい てんとう虫、お前は偉いぞ」褒めたけど何も反応しない。
このプラモンスターは魔力を貯める事ができるらしい、それゆえに魔力を吸い取る事もできるそうだ。
コヨミは少しでも魔力の消費を減らしたいために、2階に上がったらすぐにベッドに横になり、眠るのだ。
そこに音もなく てんとう虫が飛んできて、コヨミが気づく前に一瞬で魔力を吸い取ってしまう。
残った魔力は生命維持する程度なので、コヨミは仮死状態になるようだ。
それを知らないコヨミは、寝ている間は劇的に魔力の消費量が少ないため、
晴人からもらった魔力の供給を無駄にしないように、時間があれば睡眠をとるようにしているらしい。