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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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33 飛竜使いの資格-3


「お前が眠っている間に会議が開かれ、次の団長はカティヤ・ドラバーグと、一致満場した。パレードの混乱時、的確な指示で、被害を最小限に抑えた功績を称えてだ」

「あ……あ……」

 今朝、少年竜騎士が『団長』とカティヤを呼んだのが、言い間違でなかったと知る。
 カティヤの手をとって兜に押し付け、ベルンが微笑む。

「おめでとう。初の女性竜騎士団長だな。お前とナハトなら、最高の団長になれる」

「兄さん……でも……っ!」

「俺は里に帰る。次の卵から、またパートナーができるかもしれないさ」

「……っ」

 唇を噛み、どうしようもない事実にカティヤは息を飲む。

 パートナーを選ぶのは、人間でなく飛竜の方なのだ。
 そしてパートナーが生きている限り、決して変えない。

 現在、里の飛竜には、全てパートナーが決まっている。
 来年孵る卵は数個あるが、そのどれかから運良く選ばれたとしても、乗れるようになるのは三年以上かかる。騎士団に入るには更に数年の訓練が必要。
 ベルンが竜騎士に復職できるのは、最短でも十年は先の話だ。

 兄妹をじっと眺めていたユハが、王者の口調で宣言する。

「混乱期だけに、正式な叙任式は後日になるが、団長不在では困るからな。この場で一度、兜の継承をする。立会いの貴賓は、アレシュ王子にお願いした」

「アレシュさまに……」

 まっすぐこちらを見つめているアレシュと、視線がかちあった。

「おめでとう。カティヤ・ドラバーグ竜騎士団長殿」

 黒と金の愛しい魔眼に、かすかな感情の揺らめきが見えたが、静かに祝辞を述べられ、兜を持つ手が震えた。
 この炎の紋章が憧れだった。
 ベルンがバンツァーと共に叙任式を受け、初めてこれを被った姿は、今も目に焼きついている。
 時に暑苦しいと言われるが、カティヤの憧れで目標の、最高に自慢の兄だ。
 見物席で義父母に、いつか自分もあれを被りたいと言った。
 今まで女性の竜騎士団長は一人もいなかったと言われても、自分が初めての女性騎士団長になると胸を張った。

 なのに……思いもよらぬ形で叶ってしまった夢は、無味乾燥で何も嬉しくない。
 ベルンを越えたと認められ、兜を渡されたなら、誇らしかっただろう。
 でも、自分自身がよく知っている。
 飛竜使いとしても、騎士としても、兄には到底敵わない。
 ベルンが竜騎士でなくなったから……それだけなのだ。

(アレシュさま……)

 もう一度、黒衣の王子へ視線を移した。
 騎士団長の座は、間違いなくカティヤを必要としてくれている。ただし、あくまで代理人として。
 一方でアレシュは、カティヤ本人を必要としてくれている。手に入らない事を承知で。視線だけで、痛いほどそれが伝わってくる。

――どうする事も出来ない。
 竜騎士団を放りだしアレシュの元に行く事も、こんな中途半端な気持ちで団長となる事も。

「きるるるる!!」

 突然、頭上から高いナハトの鳴き声が降り注いだ。
 薄紫の羽をはばたかせ、一気に飛び降りてカティヤの傍に降り立つ。
 素早く鼻先を伸ばして、カティヤの手から兜をくわえ取り……ベルンの短い黒髪へとかぶせた。

「え!?ええ!?」

 ナハトはそのままベルンの襟をくわえ、背中に放り投げる。
 さらにカティヤの背を鼻先で突いて、厩舎から追い出すように入り口へと押しやりはじめた。

「待て!どういうつもりだ、ナハト!?」

 背中に乗せたベルンがあげる声も、唖然とする周囲も意に介さず、ナハトはひたすらカティヤを押し続ける。

「何をするんだ、ナハト!!っ……?」

 滑る干草の上で必死に軍靴を踏みしめ、カティヤはなんとか振り向いた。
 しかしナハトの顔を見た途端、それ以上声を出せなくなった。嗚咽が競り上げ喉が詰まる。
 黒曜石の瞳に涙をいっぱいため、ナハトは怒ったような鳴き声をあげる。

「きるっ!きるぅぅ!!」

 しまいに焦れたらしく、踏ん張るカティヤの襟首をくわえて持ち上げ、ベルンを背に乗せたまま厩舎の広い通路をずんずん歩きはじめた。

「こ、こらっ、ナハト……」

 アレシュの正面へたどり着いたナハトは、ギロリと魔眼王子を睨んでから、真上でパっと口を開き、宙吊りだったカティヤを落とす。

「おっと!」

 あわてて両腕を出したアレシュに、横抱きに抱えられられた。
 衆人環境で姫君のように抱きかかえられ、顔が真っ赤になる。

「あ、アレシュさま!大丈夫です。受身くらい……」

 急いで降りようとしたが、しっかりと抱き締める腕は許してくれなかった。
 ニヤリと、アレシュが口元を緩める。

「勇ましいのは結構だが、こういう時の乙女らしさってものは、ナハトの方がよく知っているようだな?」

「きるぅっ!」

 満足そうにナハトが頷いた。



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