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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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31 報復の連鎖-4

「ほざくな!若造が!!」

 槍を突きつけられている事も忘れ、マウリは怒声をあげた。
 ベルンがこの場で斬りかからないのは、マウリにとって好都合のはずだった。牢に繋がれていようと、生きてさえいれば機会はあるのだから。
 しかし、言わずにおられなかった。

 正義と認め助けられるでなく、悪と罵り殺されるでなく、悪としながら自分の手で裁かないという。
 悪を裁くという名目にかけたマウリの半生を、根こそぎ否定する、耐え難い処置だった。

「貴様の主張は、理想論だ!!同意する者などいるものか!!
人の世に争いが起こるのは、悪しき者がいるせいだ!!正義がそれに立ち向かわずにどうする!!!」

「きるるるる!!」

 マウリを睨みつつ、飛竜も納得いかずという声をあげる。

「そうだな。俺一人が主張しても、世界は変わらないし、誰にもわかってもらえないだろう。
ナハト、お前にもわかってくれとは言わん」

 毅然と立ち、揺ぎない声でベルンは言い放つ。

「だが、どうあろうと俺の意思は変わらない」

「貴様は……貴様は何もやらないだけだ!
ここで俺を殺しても、誰からも咎められないはずなのに!報復だとも気付かれないだろうに!!
腰抜けが!!」

「ああ。騎士団の仲間なら、目の前で俺が無抵抗のお前を殺しても、黙ってくれるだろう。誰にも気づかれないだろうな。
酷いパートナーだよ、それでも俺は……バンツァーの仇に、俺は報復一つしないんだ……っ!!」

 ベルンの声と、槍を握る手が震えていた。
 炎を印した兜の下から、二筋の涙が赤銅色の頬を伝っていく。

「何もやらない……たったそれだけが……どうして、こんなに難しいんだろうな……」


マウリの意識はそこで途切れた。ベルンが電光石火の速さで槍を反転させ、柄部分で首すじを強打したからだ。
 マウリが気絶したのを確認し、ベルンは岩山の一角に向け声を張り上げた。

「エドラの影が見えてるぞ、出てこいよ。コイツを運ばにゃならん」

 岩山の向こうから出てきたディーターが、口を尖らせる。

「こんな奴をエドラに乗せるのは気が進まないんだけどな。しかも……」

 ディーターがチラリと視線を上に向ける。
 怒り狂ったナハトは、すでにはるか上空まで飛び立っていた。

「……ま、コイツの重そうな鎧を剥ぎとりゃ、三人はギリギリだな」

 ナハトより幾分か大きいが、エドラは細身でしなやかな体格だ。弱った身体で屈強な騎士三人を乗せ飛ぶのは、かなりの苦労だろう。
 厳重に縛り上げたマウリを鞍にくくりつけ、ディーターはふと真剣な顔つきでベルンを見据える。

「俺はやっぱり、バンツァーの仇を討つべきだと思うよ。もし殺されたのがエドラだったら、俺は間違いなく仇を討ってた」

「……そうか」

「でもな……お前は殺さないと思ってた。本当に俺が見ていなくても」

「どうして解るんだ?」

 不貞腐れたような口調のベルンに、ディーターはニヤリと笑う。

「たまに意見は違っても、俺は親友だからな」




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