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魔眼王子と飛竜の姫騎士
【ファンタジー 官能小説】

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29 黒竜の涙-2

空色の瞳が静かに閉じていく。
 同時に、金色の光がカティヤを覆い始めた。
 声にならなかった想いを乗せ、金の光は首にかかる黒鱗の腕から、魔眼王子の全身に伝わっていく。
 アレシュの中へ、黒鱗が吸い込まれるように消えていく。

「カティ……ヤ……」

「っ!?……げほっ!げほっ!!」

 アレシュの両手から力が抜け、急激に入り込んできた空気に、カティヤはむせこんだ。

「そんな……っ!!」

 憤怒と驚愕に青ざめたマウリが、握った拳を震わせる。

「カティヤのおかげで、もう一度人間に戻れた」

 マウリを睨むアレシュの両瞳は、やはり黒と金の魔眼だったが、もう不気味で虚ろなガラス玉ではなかった。

「ご、誤魔化されるものか!!」

 マウリが一歩後ずさり、代わりにリザードマンたちが進み出る。

「バケモノは死ぬまでバケモノだ!!お前たちには、死ぬしか道はない!!」

 耳をつんざく唸り声をあげ、リザードマンたちがいっせいに襲い掛かる。
 すばやくカティヤを抱きかかえ、アレシュの魔眼が強く光った。
 視線の当たった先から灼熱の炎が吹き上がり、リザードマン達は一瞬で黒炭の彫像となる。
 それでもマウリは、リザードマンたちを生きた壁にする事で、業火の処刑から逃れていた。
 あるものは駆け出そうとした姿で、あるものは宙に飛び上がった状態で、リザードマン達は次々に焼き尽くされていく。
 あと一歩で炎がマウリを捕まえる手前、飛竜の太い咆哮とともに強風が丘へ吹きつけた。

「ぎるううううう!!!!!」

 凄まじい速さで降下したバンツァーが、巨大な翼をはためかせてアレシュとマウリの間へ塞ぎ立つ。
 翼の風圧はアレシュをよろめかせ、リザードマンの炭像をバラバラに砕き散らす。
 バンツァーは至る箇所から血を流し、すでに模様ではなくなった黒い塗料は、老竜の全身を黒く染めていた。

「バンツァー……だめだ……」

 カティヤはかすれた声で必死に訴えたが、主を死ぬまで守り通す飛竜は、大きな牙を剥きだしアレシュを睨む。

「ハ、ハハ……この飛竜も焼き殺してみたらどうだ!?」

 怒りに引きつった笑い声をあげ、マウリが移動魔法を唱える。

「待て!!」

 アレシュの魔眼が光ったが、炎を放つ前にバンツァーの爪が襲い来る。
 カティヤを抱いたまま、危ういところで避けたときには、マウリの姿はもう消えていた。
 炭と化した無数のリザードマンが転がる丘で、生きているのはアレシュとカティヤ。そして血走った目で牙を剥く巨大な飛竜だけになった。
 黒く染まった翼を広げ、バンツァーはアレシュたちに飛び掛ろうと姿勢を低くする。

「きるるるるぅぅ!!!」

 バンツァーよりも甲高い、若々しい飛竜の声が降り注いだ。
 急降下してくる傷だらけのナハトへ、バンツァーの視線が移る。
 薄紫の身体は白と金の塗料でまだらに汚れ、翼を動かすたびに鮮血が飛び散っている。

「ナハト!!逃げろ!!!」

 激痛に目を眩ませながら、カティヤは夢中で叫んだ。
 経験も体格も実力も、バンツァーはナハトをはるかに勝る。今まで持ちこたえたのが奇跡なほどだ。

 バンツァーが首を高く伸ばし、丘全体を揺るがす咆哮をあげる。逞しい後ろ足が地面を強く蹴り、穴を空けた。

 今にも失墜しそうなナハトに、カティヤが知るかぎり最強の飛竜が飛び掛っていく。




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