はじめての、えっち。-5
「もー、めんどくさいなあ! さっさと電話して、仲直りしちゃいなさいって。いい加減にしないと、怒るよ?」
言葉とは裏腹に、秋絵の顔はちっとも怒ってなんかいない。
それでも、千春は素直にうなずくことができなかった。
「だって、だって……」
「なんなのよ、キスがそんなに嫌なら、言えばいいじゃない」
「ち、違うよ! そうじゃなくて……」
もしも、あのとき口づけを受け入れていたら。
なんとなく、それだけでは済まないような気がした。
大人の男女の関係に踏み込んでしまいそうな、そんな予感があったのだ。
「ええ? いいじゃない。プロポーズしてもらった日に、初エッチなんて最高だと思うけど」
「ちょ、ちょっと! エッチとか言わないでよ。わ、わたしと浩紀はそういうんじゃないんだから!」
「ごめん、よくわかんないんだけど……千春は、浩紀くんとエッチしたくないの?」
「そ、そうじゃなくて……」
顔が火照ってくる。
男の人とのセックス。
友達の話を聞いて「すごいなあ」と思うことはあっても、自分がする立場になるなんて、正直考えたこともなかった。
だいたい、彼の前で裸になるなんて、恥ずかしすぎて耐えられない。
同い年なのに、千春よりもずっと大人びて見える秋絵。
スタイルも良くて、髪だってさらさらで、美人だし……。
自分にも、彼女みたいな容姿があれば……。
千春は、深いため息をついた。
そのとき。
テーブルの上にあった携帯電話が、聞き慣れたメロディーを奏で始めた。
画面には、浩紀の名前。
「おっと、王子様からお電話だ……ほら、さっさと出なさいよ」
「無理! 絶対、無理!」
「もう! ……あ、もしもし。うん、秋絵だけど……あのねえ、夜中に押しかけられて迷惑してんのよ。さっさと引き取りに来てくれる? うんうん、はーい」
なんてことを言うのだろう。
どんな顔をして会えばいいの……。
「いまから迎えに行くってさ。良かったねえ」
「や、やめてよ! 秋絵の馬鹿! 裏切り者!」
「んもー、痛いなぁ。クッション投げるのやめて……じゃ、このまま浩紀くんと別れるつもり?」
「え?」